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24d 守るために
『管制塔から伝言! 第一滑走路を空けてるって。西側ルートからの着陸許可が降りてるよ』
「ありがとう、一番練習したコースだ」
イェークは天井に向かって呼び掛けた。
「シギュン! 着陸シークエンス!」
ところが、応えるはずの自動音声は鳴らず、メッセージ表示も動作しない。
「……? シギュン! シギュン?」
何度呼び掛けても同じだった。音声認識でなく、操作盤からの呼び出しにも応答はなかった。
「フェンリル、カイ。頼みたいことがある。遠隔で、スレイプニルのシギュンシステムの状態を調べてほしい」
『どうしたの』
「起動しなくなった」
『ええっ!』
カイとシンフィーのやり取りが少し聞こえた後、カイは震える声で告げた。
『だ、だめだ……完全にダウンしてる……。どうして! どうしてだよぉ……!』
カイに代わって、シンフィーが問いかけてくる。
『どうする、こっちから再起動の信号を出すことは出来るが……』
バックミラーでシグルズを見ると、シグルズはこちらの視線に気付き、首を横に振った。
「いや、いい。そんなに飛んでられるほどの燃料は積んでないから」
シグルズは何度か苦しげに咳き込んだ後、イェークに命じた。
「イェーク、お前に任せる。手動操縦で降りろ」
「……了解した」
カイが荒い口調で割って入ってくる。
『ちょっと待ってよ! フェンリルシリーズはシギュンのサポートを前提に作られてるんだよ。手動で着陸なんて、危険すぎる!』
『カイ。あっちの機長の判断だ』
『でも! でもっ……』
そこでカイは言葉を失くしてしまった。カイがこの状況を分からないはずがない。手動操縦で降りる他に術がないことも、手動操縦の成功確率は不明なほど低いということも、理解しているからこそ言葉を失ったのだ。
「計器着陸装置は生きてるらしい、誘導表示を見ながら降りる。フェンリルは引き続き、管制塔との中継をしてほしい」
『……了解』
カイの声は沈んでいた。イェークはわざと明るい声を出して、自分を鼓舞する。
「何とかするって! 最初にシミュレーターで失敗してから、このパターンは結構研究してきたんだ。勝算がないわけじゃないさ」
さっきからやたらと手先が冷える。恐らく、極度の緊張のためだ。
「シグルズ、残りの武装は捨てる。それから、燃料も必要な分だけ残してほとんどは捨てていく。少しでも軽くしたいのと、……なるべく燃えないようにしたい。許可を」
「……許可する」
操作盤から、余計な物を順番に切り離して海へ落としていく。空対空ミサイル、機銃用の銃弾、大量の燃料、フェンリルと重さを揃えるためにぶら下げていた鉄の重り。スレイプニルは本来の身軽さを取り戻していった。
徐々に高度を下げながら、沿岸に広がる草原の中にワシルトラス基地を探す。巨大な格納庫と、各種訓練施設と宿舎、縦横無尽に敷かれた幾筋もの滑走路。その中心に、最も長く大きな滑走路が見えていた。
「それから、カイ。救急車を一台、滑走路近くまでつけてほしい……。それから、消防車も……動かせるだけたくさん……」
『分かってる。救急車は二台、手配済みだよ。消防車も今向かってる』
「ありがとう」
『……もう着陸なのかな。これで一旦通信を切るけど……また後でね、イェーク。シグルズも』
「ああ、また後で。必ず」
イェークは二回、深呼吸をした。操縦席の窓一杯に、滑走路の光景が近付いてきていた。視界は良好だ、来た時と変わらず遠くまで見渡せる。バックミラーを覗くと、シグルズは静かに目を閉じていた。だが再びイェークの視線に気付くと、こちらへ僅かに微笑んだ気がした。そしてその青い目は、前方をしっかりと見据えた。
イェークはスラストレバーと操縦悍を緩やかに調整しながら高度を下げていった。車輪は問題なく降りたが、やはり身に染みた旅客機よりも重く、思うようにスピードが下がらない。滑走路のランプが示す侵入角度の案内を見て、操縦悍を引き機首を上げる。誘導表示はもっと速度を落とせと言っているが、高度は急速に下がっていった。
ガツンという衝撃が機体後方に伝わる。わざと後輪を滑走路へ大袈裟にぶつけ、機体に着陸を知らせたのだ。しかしそれ以上に勢いが余り、前輪も叩きつけられる。
「ぐっ……!」
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