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case 雪 2
男とのセックスに身体が慣れるまでは、おそらく地下に監禁されていた。窓がどこにもなくて、外の音も聞こえなかったからだ。
男に犯されねば身体が満足しないようになると、窓のある階に移されて、雪は久々に日の光を見た。寝起きをする部屋の窓は細くて天井に近いところにあって、素手では開閉できず硝子も透明ではなかったが、それでも外の明るさや天気がわかるのはずいぶんと気持ちが違った。
また、部屋を外から施錠されることもなくなって、自由に出入りができるようになった。トイレやシャワールーム、ドリンクサーバーのある休憩室のような部屋がいつでも利用できるようになっていて、そこで初めて自分以外の少年に出会った。
休憩室で雑誌を読んでいた黒い髪の美しい少年は、律と名乗った。
雪がおずおずと、律も男との行為を強要されているのかと訊くと、彼は笑った。
「セックスはしてるけど、強要じゃないよ。俺、もともとこういうの興味あったし、Mっ気あるから縛られて犯されるのとか興奮する」
雪が目を丸くしたのを見て、律は濡れた黒い瞳の色を深くして、雪の脚に手を置いた。
「君は嫌なんだ? 男に犯されるの」
雪が頷くと、律は微笑みとも哀れみとも取れるような表情をした。
「だったらつらいね。俺は、うまくいけばお金持ちのオジサンにでも飼われて遊んで暮らせるし、そうじゃなくてもこの身体で仕事できそうだから、むしろラッキーかなぐらいに思ってるけど……」
そう言って律は雪の頬を撫でた。
「君は……雪は男は全部ダメ? 俺も気持ち悪いって思う?」
「え……」
「ここで調教されてる子同士で抜きっこしたりセックスしても怒られないから、俺でいいなら慰めてあげたいなって思って」
雪は律の瞳を見る。黒い瞳は美しくて、優しかった。
「……律くんが……いやじゃなかったら……キスしてほしい」
律は笑う。いやらしさのない、明るい笑顔だった。
「律でいいよ。俺も勝手に雪って呼んじゃった。じゃあ抱き締めてキスしていい?」
雪が頷くと、律は雪の腰を引き寄せながら、柔らかく唇を重ねてきた。しなやかな手も腕も、雪とさほど変わらない身体の厚みも、何故だかひどく安心できて、もしかすると年下かもしれない彼に甘えるように長いキスをした。
「…………雪も、身体は逆らえないんだね」
唇を離した後にそう囁かれて、雪は恥じ入る。口づけだけで、躾けられた身体に火が着いて、勃起してしまっていた。
「かわいそう。口でしてあげようか? もうお尻じゃないと満足できない?」
雪はうつむきながら、蚊の鳴くような声で、お尻じゃないとだめ、と答えた。こんなはしたないことを言わないといけない身体になるなんて、と思わずにはいられなくて、ひどく泣きたかった。
「そんな悲しい顔しないでよ。えっちする? ちんこ挿れられるのイヤだったら、おもちゃでしてあげるよ」
律が頭を撫でて、心を配ってくれるのが嬉しかった。この欲求をいつまでも耐えることができないのは雪自身よくわかっていて、いつもの無骨な男達に犯されるより、律に甘えてしまいたかった。
「……律のちんちん……挿れてくれる……?」
拒まれたらどうしよう、と不安に駆られながら尋ねると、律は嬉しそうに目を細めた。
「俺だったらいいの? ほんと?」
「え、あ……わ、わかんないけど、その……いつもの人達よりかは、律とセックスしてみたくて……」
「いいよ。俺もタチは上手くないかもしれないけど、雪のこと慰めてあげたいしがんばる。優しくするからもうそんな泣きそうな顔しないでよ」
言われて、雪は泣き笑いを浮かべる。律は苦笑して、雪の手を取った。
「雪の部屋行く? 俺の部屋がいい?」
「あ……律の部屋行ってみたい」
対等に近い立場で話せる相手に出会ったのは久しぶりで、雪は律の手を握り返して、彼の後についていった。
律の部屋は広さは雪の部屋とさほど変わらなかったけれど、何冊か本が置いてあって、細い窓は雪の部屋のそれより小さかった。
律は雪をベッドに座らせると、何度もキスをしながら雪の服を脱がせ始めた。そのキスと手つきの優しさに、雪は頭がぼうっとして、男同士のセックスに初めてときめきを覚えつつあった。
「あ……乳首赤くなってるね。いっぱいいじめられたんだ?」
雪が頷くと、律は心配そうな顔をして言った。
「痛くない? ちゃんと薬もらってる?」
なかったら俺の塗ってあげるよ、と言われて、雪は戸惑う。薬はもらっていたし、痛みも引いていたが、律に薬を塗ってもらうという行為はとても甘く感じられた。
「雪? 遠慮しなくていいんだよ?」
顔を覗き込むようにして言われて、雪はたどたどしく口を開いた。
「あの……薬……塗ってほしい…………」
律は笑って雪の唇にキスすると、ベッドサイドの引き出しから軟膏を取り出して、中身を指に取った。
「…………あっ……」
乳首に触れられてつい声が出る。痛みと痛みでない刺激とが、混じり合って切なかった。
「ごめんね、痛い? 声我慢しなくていーよ」
雪はこくりと頷く。律は細い指で丁寧に両の乳首に薬を塗ってくれて、そのせいで雪の乳首は硬く立ち上がり、股間も余計に熱を持ってしまった。
「……こんなこと言われたら雪は嫌かもしんないけど、えっちな格好になっちゃったね」
見ると、律のペニスもまた服を押し上げて主張していた。雪は不思議なほど何の嫌悪もなく、律に抱きつくようにして口づけを求めた。
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