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case 康 2

 暁は基本的に無口で無表情だった。だから感情があまり読み取れなくて、康はセックス以外で暁とどう関わればいいのかよくわからなかった。  ある晩部屋を出ると、リビングで暁がテレビを見ていた。暁が自分の身体以外の何に興味を持つのか知らなくて、ぼうっとその様子を見ていると、それに気付いた暁に手招きされた。  呼ばれるままに寄っていくと、手を引かれて膝の間に座らされ、後ろから緩く抱き寄せられた。温もりが身体に染みるのをじっと感じていると、不意に真後ろから声がした。 「おとなしいな、お前は」  少しばかり驚いて振り向くと、暁の目が真っ直ぐに康を見ていた。 「そうなるように仕込まれたのか、もともとそうなのか、どっちなんだ?」  なんだか胸がざわめくのを感じながら、康は答える。 「お、俺は別に……普通にしてるつもりなんですけど」  暁はじっと康を眺めて、言った。 「まだだいぶ遠慮してるな」 「それは……」 「お前を買ったのは俺なんだから、お前が暮らしに不満を持ってたら俺の責任だ。……何も我慢しなくていい」  声は淡々としていたが、その言葉はとても優しくて、康は嬉しい以上に胸が苦しくなる。また暁に溺れてしまう、と思わずにはいられなかった。 「不満とか……そんなの、今は思い付かないです」  そう言ってから、それは嘘ではないけれど本当でもないと思った。  もっと暁に話をしてほしかったし、甘く抱いてほしいという欲求もあった。暁は時間のあるときにしか康を抱かない。時間をかけて可愛がり、時間をかけて調教する。けれど康の身体は、もっと性具のように扱われてもいいから、暁の欲望に犯されたいと願っていた。  それが瞳から読み取れたわけでもないだろうに、暁は康の腰を撫ぜながら、落ち着いた声で言った。 「……欲求不満もないのか? あそこではずっと尻を可愛がられてたんだろう?」  かあ、と顔ばかりでなく身体が瞬時に熱を持った。触れ合う距離でそれが暁にわからないはずもなく、康は恥ずかしくなって下を向く。 「……まだこんなことが恥ずかしいのか?」 「あ、暁さんに言われると……恥ずかしい、です」  自分でも何故こんなに恥ずかしいと思うのかよくわからなかった。何人もの男達に、散々に辱められて、羞恥で死んでしまいそうなことをたくさんされた。男に犯されて絶頂する姿を撮られたり、大勢に眺められたりもした。自ら腰を振って果てることを強要されたし、焦らされて男性器を求めさせられたことも一度や二度ではなかった。  暁は俯く康の髪を幾度か撫でて、やはり落ち着いた調子で言った。 「自慰の道具がいるんじゃないか? 指で満足できる身体じゃないだろう」 「……」 「お前ならペニスをいじらなくても、尻だけで満足できるだろう?」  そう言って暁は康の額に唇を当てた。そこに信頼に似たものを感じて、康はまた違う気恥ずかしさを感じる。ベッドで愛される度にメスらしくなることを求められて、ペニスを擦る自慰には罪悪感さえ芽生えつつあった。 「身体を傷付けないなら、自慰は好きなだけすればいい。……きっともっと可愛くなる」  康はとても暁の顔を見られなかった。心臓がどくどくとうるさくて、暁に可愛いと言われたことに舞い上がる自分の心を押しとどめるすべがわからなかった。 「……康」  名前を呼ばれて、おずおずと顔を上げると、唇に触れるだけのキスをされてまた驚いた。 「まだ眠くないなら、尻の準備をしてこい」  康は顔が熱くなるのを覚えながら、黙って頷いた。眠気など来るはずもなかった。  中を洗い流して、雄を挿入されても問題ないよう菊門をほぐし、ゼリーを注入して、暁のもとへ向かうと、暁は何故か康の手を引いて康の部屋へと向かった。  暁にあてがわれた部屋は大きな窓があって、カーテンのドレープも美しく、今はまだほとんど空の書棚とベッドがあってもなお広かった。その床の上に、この家ではまだ見たことのなかった機械が置かれているのを見て、康は明確な予感に息を飲んだ。 「……何をされるかわかった顔をしてるな」  暁に言われて、康は頷くほかなかった。  床の上に据えられた機械は、かつて施設で康を犯したそれだとすぐにわかつた。金属の棒の先端にディルドを取り付けると、それはまるで意志を持ったかのようにピストンして康の菊門を責め立てるのだ。  暁はラグの上にさらにタオルを敷いて康を座らせると、機械の先端に己の肉棒と変わらぬ太さのディルドを取り付けた。今から暁の目の前でそれに犯されるのかと思うと、康は目眩を覚えそうになる。自分の中に膨らむ感情が羞恥なのか期待なのか判然としなかった。  確認するように暁が機械のスイッチを入れると、紛い物の男性器は生々しい性交の動きで前後してみせた。

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