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case 康 5

 全裸で自慰にふけっている姿を暁に見られてしまったせいで、康は暁とうまく目を合わせられないまま夜を迎えた。  目を見ず口数も少ない康を、暁は黙って見ていたが、とうとう浴室から出たところをつかまって、暁の部屋に連れて行かれてしまった。  暁は康をベッドに座らせると、その肩を抱き寄せてこめかみに唇を当ててきた。 「……そんなに恥ずかしかったのか?」  問われて、康はまた顔が熱くなるのを感じながら頷いた。欲望を抑え切れなくなった姿を不意に見つかったことなど、これまで一度もなかったのだ。 「俺の言う通りにしたんだから、お前はご褒美をもらってもいいくらいだ」  暁の言葉に、康はおずおずと暁の目を見た。一見すると冷たそうな、表情に乏しい瞳は、じっと康を見つめていて、そこに侮蔑も憐憫もないことが康の緊張をいくらか溶かした。 「……あの…………」  勇気を出して口を開くと、暁はわずかに首を傾けて先を促す。康はずっと訊きたかったことを、ようやく言葉にして暁に告げた。 「暁さんは……なんで俺をメスにしたいんですか……?」  ただそういう欲望なのだと言われたらそれまでだとも思いながら、康は暁の反応を窺う。  暁はほんの少し目を見開いて、しばらく康を見返した後、康の頭を撫でながら言った。 「……俺もお前を変えたいからだな」 「変えたい……?」 「お前はあの店で調教されて、男を欲しがる身体にされたんだろう?」  言葉にされるとやはり恥ずかしくて、康は目線を外しながらも頷く。うつむきがちになった康の耳に、温かい暁の唇が触れた。 「他の男ばかりがお前を変えるのは癪だ。……俺に抱かれてるときだけは、自分の生まれ持った性別も忘れるぐらいにしてやりたい」  言葉だけなら横暴なことを言われているはずだったが、暁の低く静かな声音は、まるで愛を囁いているように思われて、康は無意識に膝を擦り合わせた。  暁に抱かれているときのことを思い出さずにはいられなくて、身体がまた男を恋しがり始める。 「いくら金を出してもお前の心までは買えないから……身体ぐらいは俺のものにしたいな」  そう言って暁は、うつむく康のうなじに口づけた。  その口づけに優しさを感じて、康は顔を上げて暁を見る。相変わらず表情らしい表情のないその顔も、瞳も、決して恐ろしくはなかった。 「……暁さん、俺……心も暁さんのものになると思います……」  暁は珍しく、明らかに驚いたという顔をした。 「俺……暁さんに抱かれるの好きです。……暁さんに調教されても、悔しいとか嫌だとか思わないし……暁さんが俺のことずっと飼ってくれるなら、俺の身体いくら変えられてもいいです……」  暁はじっと康の目を見てから、少しばかり笑って康の頬を撫でた。 「……俺はお前を飼ってるわけじゃないし、お前が逃げないなら手放す気もない」 「……」 「お前が……俺のことをそんなふうに思ってるのは知らなかったな……」  言われて、康は何故だか胸が切なくなる。暁は日頃から口数が少なくて、あまり感情を見せなかったから、康も暁にどんなふうに自分を見せればいいのかわからなかった。 「……俺……暁さんが俺のどこを気に入ってるのかわからなくて……あの、本当はもっと可愛く思ってほしいんですけど……」  黙って座っているだけで愛らしく見えるような、そんな容姿ではないとわかっている。それに、変に媚びて呆れられるのも怖かった。  暁は唇の端で少しばかり笑って、言った。 「ピストンマシンで夢中になってるお前は可愛かった」  康はかっと顔が熱くなる。暁の望むことなら受け入れたいと思うものの、だからといって羞恥心は簡単になくなるものではなかった。  暁の手が伸ばされて、康の股間に触れる。固くなりつつあるものの形を確かめるように撫でられて、息を詰めた。 「……お前の身体はいやらしいな」  低い声で言われて、康は震える。それは康自身が身に沁みて知っていることだった。 「いやらしいお前は可愛いから心配しなくていい……」  囁きながら、暁は康の腰を撫で始める。たまらなくなって、康は暁の腕にすがりついた。 「……犯してほしいか?」  卑猥な問いかけに、こくこくと頷く。暁の手に身体を撫ぜられるだけで、簡単に中に火がついてたまらなかった。 「射精したらまたお仕置きされるぞ。失禁するまでいじめられてもいいのか?」  康は震えながら、それでも嫌だとは言えなかった。身体が暁を欲しがって泣き出していたし、暁にいじめられることは暁のものになるということだと思うと、それは少なからず康を魅惑した。 「……俺の身体、暁さんの言う通りになるように、躾けてください……」  細い声でそう言うと、暁は微笑んで、康の唇に温かな口づけをくれた。 

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