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日誌・18 いー眺め(R18)

「…ぁ、はあ、は…っ」 一瞬の、気怠い虚脱。弛緩した雪虎は、ぐったりと背中を秀に預ける。 その、身体を。 たまりかねたように、潤滑ゼリーと雪虎のもので汚れた秀の手が、ソファへ突き倒した。 「く…っ、なに」 ソファから返ったわずかな衝撃に、微かに息を詰まらせた雪虎の目に、天井が映る。 「え」 今度は、ソファの上にあおむけに寝転がっているのだと理解するなり。 「う、わ」 また、膝を持ち上げられた。 正面から、足の間に割り込んできたのは、秀の身体だ。 「トラ」 呼びながら、秀は。 「放ちそうだ」 弾む息を抑えながら、雪虎の足の間に、ぐっと腰を押し付けた。 ここに至って、ようやくはっきりと感じ取れた秀の状態の変化に。 雪虎は強く拳を握り締め…、ただもう、怒る気力もなく、気が抜けた気分で呻いた。 「勃ってんじゃん…」 良かったな、と言うべきか。 この状況では笑えないと思うべきか。 本当は嘘ついたんじゃないか、とも少し思うが。 秀が雪虎に、そんな嘘をつく理由はなかった。 結論として。 秀の言葉は、事実だった、と言うことになるが。 雪虎相手に、ソレをどうするのだろう。 いずれにせよ。 雪虎は気分まですっかり出来上がっていた。 その上、秀の身体は準備万端だ。 ―――――ならば。 …もう少し、楽しい遊びを続けても、―――――いいはず。 あとで思い返せば、いいわけねえ、とツッコむのだが。 こういう時の雪虎は、はっきり言って、快楽を追うのに全力を賭している。 何もかも後回しで、気持ち良さに全面降伏し、支配を許してしまう。…後で絶対後悔するのに。 この時も、のぼせ上った頭は、素面ならこの男相手に決して言わない誘いを思いついた。 「…こすりっこ、しませんか。会長」 秀は、大きな体で、いっそ幼いような態度で、首を傾げる。 「それは、なんだ」 いっとき、雪虎は複雑な気分になる。 秀が素直すぎて、幼い子供に悪い遊びを教えている気分になったのだ。 なんだかんだ、昔からだが、秀も、快楽には従順だ。嫌悪感を示すどころか、子供めいた態度で興味を抱いている。 嫌悪か侮蔑の目で見てくれた方が、雪虎としてはやりやすいのに。 そして、このときは、―――――かわいい、とさえ思った。不覚にも。 ふは、と息だけで笑い、言い直す。振り回すように、からかうように。 「勤勉な会長には、こう言えば通じますかね。―――――兜合わせ」 一拍置いて、秀は。 ああ、と頷き。 着物の合間から、自分のソレを取り出した。とたん。 雪虎は、真顔になる。 予測は、していたが。 でかい。 だいたい、この体格である。 その上で、勃起したとなれば、…もう、鈍器のレベルだ。 中学の頃とは比べ物にならない。そして。 充血の仕方が、非常にエグい。 その先端から、だらだらと、先走りの体液が垂れ流しになっているのが、淫靡と言うより、もはや恐怖だ。 秀の、丁寧で、品ある仕草や静かな物言いからは、想像すらつかない…暴力性を想像させる、迫力のイチモツ。 これが、今まで一度も使われたことがなかったのなら。 …相当、ため込んでいるはずで。 正直、色々な意味で怖い。 一度放ったくらいではまだ元気な自分のものと一緒に擦り合わせるにしても大変そうだな、と思いながらも伸ばそうとした雪虎の両手は。 「…なんです、会長」 まだぬるつく秀の手に捕まれた。 そのまま、雪虎の頭上に縫い止められる。同時に。 双方の陰茎が重なり合った。 熱い。 雪虎の内腿が震える。思わず、足を閉じかけ、結局、ぬるつく内腿で秀の腰を締め上げる形になった。 「ちょ…っと、かいちょ」 「トラ」 物騒に据わった秀の目が、雪虎の顔を探るように覗き込むなり。 「ぅ、あっ!」 自分のモノを雪虎に強く擦り付けながら、秀は前後に腰を振った。 勢いのまま、秀は雪虎に覆いかぶさる。 胸から腹から、なにもかもがくっついた。のしかかられ、これでは逃げようもない。 耳元で秀の息遣いを感じながら、その肩口から、雪虎は秀の下半身の状況を見下ろす格好になる。…しかも、向こう側の壁、本棚の間には。 昔、玄関口に立てかけられていた全身を映す鏡が立てかけられてあった。 なぜそんなところへ移動させられたかと言えば、以前雪虎を含めた子供たちが駆けまわっていた際、倒れたら危ないから、と誰かが引っ込めてそれきりになった結果だ。 そこに。 秀の背が、丸写しになっていた。 雪虎を責め立てる秀の、尻の動きが、無防備で、懸命で。 必死に快楽を追って、自身も雪虎も追い立てる淫猥さに、視覚から、ぞくりと寒気に似た快感を覚えた。 ただ。 主導権を握られ、翻弄され続けるのも、癪で。 秀の腰の動きに合わせ、―――――雪虎は、左右に腰を振った。たちまち、耳元で秀が息を詰める。 してやったり、と薄く笑って。 雪虎は胸を息で弾ませた。押しつぶされて、息苦しいのに、心地いい。 「く、トラ、…トラ…っ」 呼ぶ声が、必死に聞こえて。 雪虎は、すぐ近くにある秀の耳朶を、応えるように甘噛みした。刹那。 身体の上で、秀の身体が大きく震える。 彼のモノが痙攣し、生ぬるい何かが放たれた。その合間にも。 ぎこちなく秀の腰が動き、ソレが擦り付けられる。 その動きを、秀の身体にしがみつく格好で、肩越しに背中側から雪虎は見下ろして、思うさま堪能した。つい、呟く。 「…はは…っ、エッロ」 正直な気持ちだったが、ばかみたいな台詞を口にして、雪虎は。 完全に、秀の身体が弛緩する寸前―――――、 「よ、っと」 秀の着物と体重をうまいこと利用し、身体の場所を入れ替える。 幸い、押さえつける秀の腕から、拘束の力はほとんど抜けていた。 それに。 二度目はまだ、雪虎は達していない。脱力するどころか、みなぎっている。 またがって見下ろせば、面食らって見上げる秀の顔が見えた。珍しい表情だ。 つい、上機嫌に口笛を吹いた。 「いー眺め」 いつも見下ろしてくる人間を見下ろすのだ。気分はいい。 「それは私の言葉かと、思うのだが…」 言いながら、秀の視線が雪虎の顔から下がり、胸元を辿って、…もっと下へ、―――――下がって。 またがった雪虎の、足の間で、止まる。とたん、何日も飲まず食わずで過ごした人のような態度で、ごくりと秀の喉が鳴った。 雪虎のものは、一度放っているのに、まだ元気だ。ただしそれは、お互いさまで。 秀に続いて互いのそれを見下ろした雪虎の頭に、また、阿呆な考えが浮かぶ。 ―――――後ろのハジメテをもらったんだから、こっちのハジメテももらおうか。

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