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日誌・31 とびきり意地悪く(R15)
どうにも力が入らず、声の出し方が分からない。
大河が、何を聞くこともできず、唇を弱く開閉させるのを尻目に、雪虎は身を起こした。
「なに、簡単な話だ。弱みをバラまかれるのが嫌なら、この場所のことだけ、黙っててくれりゃいい」
雪虎の手が、大河の、ボタンを外されたシャツの前を大胆に広げる。とたん。
微かに、目を瞠った。
すぐ、楽し気な笑いが、雪虎の口元に浮かぶ。
「へえ。鍛えてるんだな。坊ちゃんはガリガリか、たるんでるかと」
言うなり。
雪虎の片手が、大河の臍の周辺を、くるりと撫でて。
「かと言って、ゴツゴツしてるってより、俳優みたいな魅せるカラダっていうか…」
最後に、ぐ、とくぼみを押しやり、浅い位置を抉るように動かした。
その、感覚が。
「ふ、ぁ…っ」
びり、と。
一瞬、大河の腹の奥底を戦慄かせる。―――――過剰なほど、鋭く。刹那。
指の動きが、止まった。
「…まさか、お前」
少し、戸惑った表情で、雪虎は呟く。
「アッチをやられたか。感度が倍になるヤツ」
一人合点する雪虎に、だが説明されるまでもない。
その言葉と自分の症状で、大河には、彼の言いたいことが大体わかった。
施された薬物の話だ。
「本気で、玩具にする気だったか、あの野郎」
怒っている、と言うよりも、雪虎の声には、呆れが強い。
仰向けに寝転がっているのに、眩暈を感じながら、大河は言葉もなかった。
雪虎が言うことが事実なら、後々もたらされる結果を考えず、今回のパーティの主催者は大河に一服盛ったことになる。
…まさか、そんな馬鹿が本当に存在するのだろうか?
「どうしてこう、いい歳して後先考えずに刹那的な行動がとれるんだろうな?」
雪虎は一度嘆息。
彼の態度からして、どうやら実在するらしい。大河は唖然とした。
雪虎はと言えば、すぐ、気を取り直したように手を動かす。
「まあ、いい」
大河の、ジーンズのジッパーを思わせぶりに降ろし、その縁に手をかける。下着ごと。
「恥ずかしい写真の一枚や二枚撮っておけば、色々黙っててくれるよな?」
朦朧と天井を見上げているだけの大河の目を覗き込み、雪虎は意地の悪い顔で笑った。
…恥ずかしい写真?
良く回らない頭の中で繰り返した時だ。
思い切り、下着ともども、ジーンズを引き下ろされた。
―――――何が起きているのか、大河はすぐには理解できない。
雪虎は、そういうことをする人間に見えなかったからだ。
と言う以前に、彼が、他人そのものに興味を持つようには思えなかった。第一、雪虎は。
大河を嫌っている。今、本人が告げたように。
まさかいきなり脱がされるとは、想像の範疇外にあった。たとえ今、意識があやふやでなくても、抵抗できたかどうか。それに。
軽い、混乱があった。
脱がされたことに対する驚きはあっても、嫌悪は湧かない自分自身に。
ここまで傍若無人に触れられたなら、反射的に跳ねのけようとしてしまうはずなのに。
なんにしろ。
大河が他人の前で丸出しになった現実は変わらない。
なのに、羞恥も怒りもわかなかった。あるのは、戸惑いだけ。
大河に手を出すのは高くつく、そう先ほど言ったのは、雪虎だ。破滅を仄めかしながら。なのに。
今、彼自身が、危うい行動を取ろうとしている。
何を考えているのか、読めない。
ただ、…なぜか。
服を、大河の膝までいっきに下ろすなり。
一瞬、雪虎の手が止まった。直後。
「…へえ」
感心したような、無意識の呟き。次いで、
「きれいなのは顔だけじゃない、ってか」
言葉の内容は、褒めているようなのに。…どうしてだろう。
気に食わない、と言った不機嫌な声。
「お前、コレで、」
いきなりだった。
つ、と固い何かが、―――――力のない大河自身の亀頭、その先端に、
「―――――っぁ!」
触れる、感覚に。
大河の背が反り返る。顎が仰け反った。
触れたのは、雪虎の爪の先だ。ただ、それだけなのに。
あまりに強い刺激が腹の奥底を震わせ、背筋を戦慄かせた。
「何人、女を泣かせた?」
なぜだろう、その声に、怨嗟のような怒りを感じる。
ぐぅっと、大河のソコが力をみなぎらせる合間にも、先端を弄る指の動きは止まらない。
爪の先で、強く抉られ、たちまち透明な雫がこぼれる。
それはあっという間に溢れ、盛り上がり、滴り始めた。
「チッ、モテるんだろうなあ、本当に」
雪虎は舌打ち。どうしてか、そこに悪意めいたものを感じた。
彼の態度に、妙な直感が働く。
「ト、ラさん、は」
妙なところに妙な力が入るせいで、舌足らずになったが、どうにか言葉を放てた大河に、雪虎は面白がるような目を向けた。
「…お、喋れるようになったか」
絶え間ない刺激に、大河の下腹が、妙に波打つ。そこを止めたくて、大河は力の入らない手を伸ばしながら、不思議な気分で呟いた。
「僕に、嫉妬、しているんですか」
確かに。
雪虎には妙に陰気な雰囲気がある。そのせいか、ネガティブな印象が強い。
だが、話すことはなくとも、会う回数が増えれば増えるほど、逆に、超然とした雰囲気を強く感じるようになっていた。
雪虎は。
自分自身に、絶対の自信を持っているように感じるのだ。だからこそ。
子供めいた嫉妬など、誰かに感じることなどないと勝手に思っていた。性的な事柄とも、無縁どころか、あまり興味がないようにも。それが。
…今の、彼の言いようだと、まるで。
女性の目を集める相手に、理不尽な妬みを抱いている、幼い自分勝手さで大河を嫌っているように聞こえた。
そんなことで、とあまりの意外さに呆気にとられる。
指摘するなり。
雪虎は、悪びれた様子もなく、鼻で笑った。とびきり意地悪く。
「今頃気付いたのか?」
そんな顔をしても、どこか愛嬌を感じさせる彼は、どこか幼い、いたずら小僧めいた印象を見る者に与える。だから、油断した。
それは―――――いきなりだった。
「…ぃ、あ、ぁっ!」
雪虎の指先が、深く大河の先端を摘まんだ。罰するように。
全体を扱かれたわけではないが、大河の陰茎は完全に勃起している。
指を離された、と思ったときには、間髪入れずまた爪を深く埋められた。
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