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日誌・43 いつも通りに(R18)

「な、」 大河が、否定的な反応をしかけた、寸前。 ―――――雪虎は、いっきに押し入った。 反論も何もできない勢いで、大河の中の敏感なしこりを強く突き上げた。 「…ひっ、ぅ」 大河が目を瞠った。全身が雄を誘うようにしなる。淫靡に。 陸に上がった魚のように、跳ねた。刹那。 大河の陰茎が慄きながら吐精する。 (…トコロテン) 拍子に、雪虎も強い締めつけに果てそうになる。 堪えながら、大河の腰を掴んでいた手で宥めるように彼の脇腹を撫でた。 その動きにも感じるのか、鏡に映る大河が切なげに眉根を寄せる。 身をよじった。 それを横目で見ながら、雪虎は純粋に疑問に思う。 ―――――誰が相手でもこんなに反応が良いのだろうか。 我ながら、バカげた疑問だと思う。知ったところで、意味はないし、何も変わらない。 そもそも、普段なら。 大河に、そんなことを聞いてからかえば、丁寧ながらも冷笑じみた反応が返る。 間違いなく。 なら、最中に真面目に尋ねれば、どうなるか。 一度真剣に尋ねた結果を思い出す。遠い目になった。 (泣かれたな) こんな関係であっても、大河は、ほぼ身内だ。気持ちいいという以外で泣かれるのは心底困る。 というわけで、二度同じ失敗は犯せない。 結局、真相は雪虎には不明のままである。 とはいえ、この反応だけで、満腹なわけで。 雪虎はつい、腹いっぱいの獣のように、自身の唇を舐めた。つい、独り言めいた声で呟く。 「あー…、キスしたい」 「…っ」 気のせいか、見下ろした大河の身体が、寸前よりも色づいた気がした。絶え入るような吐息が室内の空気を揺らす。 雪虎は目を細めた。囁くように告げる。 「後で、正面から、いっぱい、しよう、な?」 以前はどうだか知らないが、雪虎と関係を持つようになってから、大河は口付けを好む傾向にあった。 こう言えば、落ち着くか、とも思ったが、 「あ、ぁ」 強制的な射精に、訳も分からない様子で身を跳ねさせながら、大河は首を横に振る。 「いけませ、…トラさん、抜い、て」 声に、嫌がる色が混じる。本物の、嫌悪だ。 今まで何度も身体をつなげたが、生での性交を、大河はことのほか嫌った。 特に中で出されることには、抵抗が強いらしい。 小さな頃、何かあったのだろうか。そう思わせるような、激しい反応をする。 最初からだが。 遊び慣れた娼婦のような、性的な魅力が匂い立つ動きを見せるくせに、一方で、大河は処女めいた反応をする。 雪虎にとっては、『その程度』のことで。 潔癖そうな反応を見せられると、逆に、―――――誘われている心地になる。 大河が快楽に弱く、溺れているようなのは、まずもって、本人が溺れることを楽しんでいるからだ。 つまりは自身にそれを、許している。 大河が、楽しんでいなければ。 大河が、溺れることを自身に許していなければ。 雪虎は端から、大河にとって単純な排除の対象だったろう。視界に入れる価値もない存在だと、名すら覚えなかったに違いない。 快楽に溺れている、…はずなのに。 刹那に真顔に戻るような。 大河には、そんな、完全に自身を律してしまうような部分がある。 おそらく彼は、意志の力一つで、快楽の耽溺からも一瞬で帰って来られる人間だ。 今までも、何度か。 …そういうことは、あったのだ。 大河は、ほんの瞬間に、我に返る。 優先し、興味を抱く話が出れば、寸前まで何をしていようとも、たちまちのうちにそれらに集中する。 そういう、男だ。 無論、二人の関係上、その方が正しい。 雪虎とて、大河がなによりも雪虎との時間を優先すれば、逆に困惑するだろう。 とはいえ、今日は今のところ、大河にそういうつもりはないらしい。 溺れたい気分、なのだろう。そうであったなら。 大河は、―――――とことん、だ。今とて。 大河は、口では嫌がりながら―――――自分からは逃げようとしない。 雪虎の反応を窺うような、緊張した大河の背中を見下ろし、 「…分かった」 雪虎は自身を、今度は一息に引き抜いた。 先端だけを残し、動きを止める。 大河が、ハッと息を引いた。 これから何が起こるか、予想がついたのだろう。 ―――――実際のところ。 大河への警戒を、決して捨てられない雪虎は、性交において、大河が本気で嫌がっているようなことをしたことはない。 自分の身体さえ、大河にとっては道具に等しい。単なる道具だ。 それでも妙に切羽詰まった、こういう嫌がり方をする、と言うことは、…精神的な何かがあるはずで。 だから逆に、今まで雪虎は大河の身体をひたすら可愛がった。 執拗に責め立てた。 入念に快楽の扉を何枚も開け続けて。 雪虎とのセックスが、大河にとって、楽しめる強烈な刺激になり得なければ、きっと雪虎と言う存在は、御子柴から切られる。何の未練もなく。 しかし。 今日は、別だ。 その程度には、苛ついていた。頭に来ていた。 これによって、関係が変わっても、終わっても、別に構わない。 だいたい、今までがおかしいのだ。 大河はさやかと結婚し、子までもうけている。 と言うのに、雪虎とも身体の関係が続いているというのは。 道理に反する。―――――ああ、今更? いまさらの、話だ。分かっている。たとえ。 大河やさやかが承知でも。 なんだかんだ言って、関係が続いたのだから、雪虎も含めて、三人揃って救い難いろくでなしなのは確かだろう。 「さ、俺が動くのはここまでだ。あとは自分でやりな。…いつも通りに、な」 雪虎は、楽しんでいることを隠さない語調で言った。 このやり取りは、今に始まったことではない。 最初に身体を重ねた時から、何度も続けていることだ。 何かをしてほしいなら、―――――自分で動け、と雪虎は促す。 そもそも、大河には、与えるだけでは満足しない部分があった。 与えられることに、慣れすぎているのだ。 そうで、なく。 限界まで水に乾いた者のように―――――自ら欲しがり、切ないほどコレを得たい、と求めるよう仕向けなければ、この男は、快楽にさえ信じられないくらい鈍感になる。 動かない雪虎に、大河の尻が戸惑うように揺れる。すぐ、焦れたように腰が動いた。 見下ろしていれば。 大河は、雪虎を飲み込もうと、して。 我に返ったように動きを止める。 「く…っ」 すぐさま、意を決したように、今度は引き抜こうと動いた。なのに。 結局抜き切れず、先端を食んだまま止まる。 本当はどうしたいのか。煮え切らない光景だ。 いずれにせよ。 大河のように品がある男が、獣の姿勢で、同じ男のイチモツを、自ら抜きさししている。 見る者が見れば、思わず生つばを飲み込むほどいやらしい光景だろう。

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