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日誌・44 地獄だ(R18)

「できないのか」 上がりそうになる息を抑え、雪虎がわざと呆れ果てた声で言えば、 「や…!」 声の素っ気なさに、抜かれる、と思ったのか。 首を横に振りながら、また大河の腰が動いた。 たどたどしい動きで、雪虎自身をカリの部分までクプリと呑み込む。 結局、雪虎はひとつも動いていない。 気付いて、大河の頬が朱に染まる。 勝手に腰が快楽を求めて動くのを止められない。 思わず、と言ったように、大河が悔し気な声を漏らす。 「でき、ない…っ」 「へえ?」 雪虎は唇だけで笑った。それは。 どこか、意地の悪い。 愉悦に満ちた、―――――不敵な笑みだ。 雪虎のそういった表情には、不思議と、引力ある色気が満ちる。 鏡越しにそれを垣間見た大河が、見惚れた刹那。 「―――――だったら、」 改めて、雪虎は大河の腰を左右から掴んだ。そのまま、 「このままだ、な?」 思い切り、突き込む。 奥の、―――――奥まで。 「あっ!」 大河の声に、正直な喜悦が滲む。 「あ、…ぁっ」 繰り返される律動。 押し出されるように上がる声。 嬌声の端に、涙がにじんだ。 悶えながら、もっとと促すように、どんどん大河の身体が開いてくる。 よくここまで感じるようになったものだ、と雪虎は意識の端で感心した。 正直なところを言えば。 薬物の手助けがあった最初の時はともかく、その次の交わりでは、大河の身体は固い蕾も同然だった。 素面では、そう簡単に快楽を拾えなかった大河は、正直、辛かったはずだ。ただ。 どこに快楽を感じる部分があって。 それがどのような快楽か。 このことを最初に知っていたからか。 ―――――大河は覚えが良かった。 今となっては、奥が一番感じるようだ。 ただ、中で感じるようになると、雄の快楽では物足りなくなるのだろうか。 前への自慰ではなかなか射精に至れなくなった、と以前、聞いたことがある。 大河が、快楽でドロドロに溶け、朦朧としたところで。 譫言のように―――――無理やり答えさせた。 不意に。 なすがままだった大河の背中に震えが走る。中の雪虎を締め上げた。雪虎が息を詰めると同時に、 「は、あぁ―――――…っ」 ―――――大河が達した。その身が、切なげにくねる。心地がいい、と。言葉にされなくても、その全身が語っていた。 それでも、雪虎は抜きさしを止めない。 すぐ、大河が、切羽詰まった声を上げる。 「く、…止ま、って…トラさ」 雪虎のイチモツが、締め上げてくる中の肉を滅茶苦茶にこね回した。 ぐちゅ、と泥に足を突っ込んだような音が上がる。繰り返し。雪虎自身はまだ、固いままだ。 溺れるように、大河が唇の開閉を繰り返す。 閉じられない口の端から、唾液がこぼれた。 「また、イッ」 大河の言葉が、途中で切れた。 表情が、陶然と蕩けたものから、泣き出しそうなものへ変わる。 全身を戦慄かせた大河を、雪虎は気紛れめいた動きで、後ろから抱きしめた。 「なあ、御曹司」 大河の前へ回された雪虎の器用な手が、手早く動く。 大河の上着の下のベスト。シャツのボタン。 雪虎の指先が、丁寧に外していく。一方で、雪虎は突き上げる動きを止めない。 赤くなった大河の耳元で囁く。 「今日は、俺が満足するまで…付き合ってもらおうか」 「な、に」 大河は目を瞬かせた。 思わず、言われている意味が分からない、と言いたげな声を出した直後。 大河は、蒼白になった。 怖気づきながらも、たちまち、快楽の熱で頬が淡く色づく。 ―――――雪虎の性欲は底なし。 彼と関係を持ち続けた大河は、骨身にしみて、それを知っている。 それが、満足するまで? 死ぬ。死んでしまう。冗談でなく、死ぬ。 「トラさん、ちょ、」 待ってくれ。 言おうとするなり。 あらわになった胸元。 育ちきった胸の肉芽を、いきなり背後から指で挟まれた。指の間で、圧し潰される。 「ん」 大河が少し顎を引いた拍子に、すぐそばで、雪虎の囁きが続いた。 「俺が、一旦、満足、するまで、な?」 意地悪をするときほど、雪虎の声は優しくなる。そう、今みたいに。 「可愛がるのは、胸と尻だけだ」 快楽のせいで、もやがかかったような思考の中、理解できるまで大河は雪虎の言葉を反芻する。 朦朧とした大河の様子に、雪虎は、耳元で笑った。 「前がぱんぱんになるな?」 そう言えば、今日は最初から。 雪虎は、大河の後ろにしか触れていない。 見えているだろうに、腹まで反り返った大河の陰茎は放置だ。 確かに、後ろだけでも相当に、麻薬めいた快楽が得られる。そして、中からの刺激によって、前で達せないわけでもない。 だからと言って。 それで雄の部分が、心底満足できるわけもなかった。一度も触れられない、と言うのは。 地獄だ。 前だけではイきにくい、というのはあるが。 まったく触れられなくても構わない、というわけではない。 特に。 雪虎が大河と身体をつなぐときは、陰茎への刺激も執拗なほどで、一度も触れられないということは、―――――かつてない。 ―――――既に大河の袋は相当重くなっている。陰茎もはち切れそうだ。 触れられない、と宣言されることで、逆に。 触れられない苦痛が強まる。 思わず、大河は首を横に振った。だからと言って。 触れてくれ、と強請ることもできず。 思わず自身で慰めようと、震える手を下肢へ伸ばそうとした、寸前。 手首を掴まれる。 「あ」 そのまま、シーツへ縫い止められた。 「は、放して、くだ、さ」 反り返った陰茎に。 ―――――刺激が欲しい。触れたい。扱きたい。爪を立てて抉りたい。ああ、いま、強く弄ればどんなに。 …気持ち、いいか。 想像だけでも、先端が吐きだす先走りの量が、どっと増える。 「はは」 雪虎は楽し気に笑って、刹那、真顔で、 「―――――やだね」 酷いくらいの突き上げを再開した。

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