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日誌・56 金色(R15)

(それに、…たぶん) 出会った当初から、性格的なところもあり、体格ができているように思えたため、大人びて見えたが。 恭也はおそらく、雪虎から見て、五歳は年下だろう。 それが分かるから、抑え込むようにして勝とうと言う気は起きない。 なんとなく、降参に似た気分で、雪虎は尋ねる。 「お前」 以前から、うっすらと察してはいたが。 「俺を抱きたいのか?」 ―――――今まで。 それを確認して、どうなる、というものでもないのから。 尋ねようと言う気も起きなかったのに。 恭也が見せる余裕のない表情のせいで、とうとう、聞いてしまった。 間髪入れず、恭也は掠れた声で、一言。 「犯したい」 言葉選びとは。 一瞬、呆れたが。…まあ、これが恭也だ。 にしても、解せない。 恭也が本気でそうしたいと思うなら、雪虎など簡単に組み敷けるだろう。 出会ったばかりの頃ならともかく、今は身長も体格も、恭也の方が上だ。 相手を圧倒する暴力性もまた。 にもかかわらず、恭也が選んだのは。 ―――――雪虎に身体を明け渡すこと。 今とて、結局。 挿入する気がないことは、分かる。 こんな弱い存在である雪虎に、恭也のような個としての強者が、簡単に動揺するのは、良くない状況だ。 なぜ雪虎なのか、と。 恭也に聞くのは、…酷な話だろう。 きっと―――――雪虎しかいなかったのだ。 雪虎から見れば悪趣味と思っても、他に比べる対象がいない世界に恭也はいるのだから、下手なことをは口にできない。 「トラさん」 息を弾ませながら、苦し気に眉根を寄せ、恭也が唇を雪虎の耳に這わせる。 次いで、甘いもののように、肌の上を、ねっとりと、…舌が。 ぞくり、と快感が背中を撫で上げ、―――――…ずしり、と快感が下腹にたまっていく。 ―――――これは、よくない。絆されそうになる。 受け身の時は、遊び慣れた態度でこちらを翻弄してくるくせに。 オスとして振る舞うときは、…こんなふうになる、とは。 切り替えるように、雪虎は思い切って、声を上げた。 「時間が」 とたん、ぴくりと恭也の腕が震え、拘束が緩んだ。 「…ないんだろう、が」 これ幸いと、雪虎は。 恭也の腕の中で、身体の向きを変えた。 腕を伸ばし、恭也の身体を引き寄せ、 「…っ」 すっかりその気になった下半身。 その、濡れた、先端と、…先端を。 挨拶を交わすように、くに、と一度押し付け合って。 軽く離せば。 ねち、と先走りが透明な糸で互いを繋いだ。その体液が。 …ぬとり。 陰茎を、伝い、落ちる。 そのわずかな感覚にすら、背筋が震えそうになった。 その時になって、気付く。 (…金色?) 恭也の下の色が、髪色と違っていた。 今まで気づかなかったのは、暗い場所で性急に身体をつなげていたせいだろう。 しかも、常に。―――――獣の体勢だった。 つまりは、恭也の後ろから突いていたわけで。 いや、たまにならあった気もするが。 明るい中で、しかも真正面から向き合って、という体勢は初めてという事実に気付いて、雪虎は自分のダメさ加減に内心で少し落ち込んだ。 なんとなく、上目遣いで恭也を見上げる。 刹那、もうひとつ発見があった。 …恭也は睫毛も金色だ。 こうなれば、―――――髪は染めているのだろうか? だが不自然な感じはない。では。 見た通りなら、髪は黒で、他は金、ということになるが。 (こいつ、どれだけ人種が混じってんだ?) 今度はつい、まじまじと恭也を見つめた。 「…トラさ」 雪虎の視線に、居心地悪そうに身じろいだ恭也を、今度は挑戦的に見上げ、笑ってみせる。 「どっちにしろ、このままじゃ」 ぐ、と唆すように、腰を押し付け、動かした。性器がこすれ合い、―――――たまらなく気持ちがいい。 ああ、待ち焦がれた。 強い、刺激。 感じるまま、眉根を寄せた。その表情に、恭也が息を呑む。 「外、歩けない、…だろうが…っ」 刹那、雪虎の語尾を飲み込むように。 恭也が両手で顔を包み込み、―――――口づけた。 その、両手が。 他人の命をゴミように扱うものだと知っている。なのに。 大切なもののように扱ってくるこの手が、簡単にそうできるシロモノとは、どうしても思えなかった。 ぬるり、すぐに、恭也の舌が雪虎の歯列を割って入りこむ。 雪虎は抵抗なく舌を絡めた。急くような動きを宥めるようにしながら、一方で。 恭也の腰を強く引き寄せた。 立ったまま―――――恭也の腰に、乗りあがるように、して。 腰を上下に動かす。陰茎をこすり合わせる。 相手が上に動かせば、一方は下へ。 共に、快楽を追って、互いを追い立てる。 「は…っ」 「ふ、ぅ」 二人が揃って、問題がなくなれば、もうすぐここへ人が戻ってくるだろう。 そうなる前に立ち去らなくてはならないのに、そういった焦りすら、刺激になるのだから、雪虎は大概ろくでなしだ。 すぐ、そういった気持ちすら、気持ち良さでぐずぐずになった。 「トラさん…っ」 特別なもののように名を呼ぶ恭也と額を合わせ、動きを速める。 夢中になって、互いに互いを追い立てた。 けれど。 知っている。 ―――――…勘違いしてはいけない。 今、恭也が。 雪虎に執着するのは、普通に触れられる相手が雪虎しかいないからだ。 世界が広がれば、簡単に、雪虎を置いていくだろう。…それが正しい。 今が、間違いだ。 だから。 (もし俺が、本当の意味で、どうにかして…手助けしてやれるなら) してやりたいのにな、と。 自分勝手に、思う。 どうせ、雪虎のことだ。 …最後まで責任なんて、―――――取れもしないくせに。

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