77 / 197

日誌・76 逃げませんから(R18)

雪虎が、言うなり。 布越しにも、分かった。秀のソレが、また一回り大きくなる。 …どこまで育つのか、どこが限界なのか。思わず青くなる。息を呑み、視線を下げれば。 秀の、何かを耐えるような声が落ちてきた。 「煽るな」 …確かに、雪虎の台詞はそう取れる。いや、そんな意図はなかった。誓って。 だが何をどう言っても言い訳になりそうだ。 どうもこのままだと話は、先へ進みそうもない。 きっぱり打ち切ることにする。 なんにしたって、この体勢でじっとしていても、何の解決にもならない。 「俺を少しだけ、放してくれませんか」 息を整えながら雪虎は言う。 だが、返されたのは沈黙。その上、秀は動かない。 不自然な姿勢が苦しいのだ。せめて、足を下ろさせてほしい。 秀は何を考えているのだろうか。 思うなり、脳裏に閃いたある考えに、まさかな、と思いながら付け加えた。 「…逃げませんから」 一拍、置いて。 秀は大きく息を吐いた。仕方なさそうに従ってくれる。 雪虎の足が、畳についた。ただしその間も秀の手は雪虎の腰から離れない。 (…いやこの状態で、俺が逃げると本気で思ってるのかこのヒト) どれだけ雪虎に信用がないのか。いや、性悪と思われているのか? ―――――仕方がないとはいえ。 過去の自分の言動に、つい、泳いだ雪虎の視線が、ふと秀の帯に止まった。 そこに、先ほどまでなかったモノが挟まれていたからだ。目を瞬かせる。 「…それ…」 言えば、秀も目を落とし、 「ああ」 息を無理に抑えた声で応じた。 「奥の、風呂場から取ってきた」 ―――――そうだった。この座敷牢は、風呂もトイレも冷暖房も完備だ。先ほど、秀が奥へ行ったのはこのためだったのか。 月杜家の風呂場なら、確かにソレが普通に置いてあって不思議はない。 雪虎の視線の先にあるもの。それは。 ―――――潤滑剤だ。 暗くてよく見えないから、ローションかもしれないが、間違いなくその類のもの。 (…ってことは、わかってるんじゃないか) いくら興奮していても、後先考えない十代でもないのだ。 お互いに、それなりの経験がある大人。 準備もなくいきなりつながることができないのは、分かり切っている。 ただし興奮しきった今、雪虎は自分でうまくほぐせる自信がない。 ―――――それなら、今回は。 (このヒトに、やってもらおうか) 心を定め、雪虎は荒く息を吐いた。 腰を掴む秀の手に手を重ねる。 上目遣いに見上げれば、鈍い動きながら、放してくれた。 その場で雪虎は反転。秀に背を向けた。 片手を木格子につき、口を開く。 「俺の入り口は狭いので」 言った後で思う。 なんて台詞だ。 ただ、頭は興奮でのぼせ切っていた。そういった羞恥は、すぐ、流れ去る。 雪虎はうまく力が入らない片手で、浴衣の裾を持ち上げた。 それを腰のあたりで蟠らせた、上で。 一瞬、躊躇った、のち。 ぎこちなく、濡れた下着を下ろす。腿の、半ばまで。 頼りになるのが足元に転がるランタンの明かりだけでは、ソコがはっきり見えるわけでもないのに。 下半身を秀へ差し出すようにした自身の格好に、さすがに飲み込み切れない羞恥が湧いた。 「どうせ、する、なら」 声が小さくなる。 木格子の方を向いたまま、俯いた。顔が熱い。 「…一緒に、気持ちよくなりたいんで」 暗くて助かった。 きっと、耳から首筋まで真っ赤だろう。 ただ、秀から、強い視線を感じる。 それは普段、決して誰にもさらさない場所へ注がれていた。 勘弁してくれ、と思う。…そこから焼け焦げそうだ。 「―――――会長が、解して、くれませんか」 言うなり。 秀が、動く気配。畳の上に、何か、小さなものが落ちる音。直後。 とろり。 「…っ」 冷たい感触が、雪虎の尻の割れ目を伝う。 すぐ、体温でぬくもった、それを。 「あ、…!」 秀がその体格に見合った太い指で、雪虎のつぼみ、その入り口に強く塗り込めた。 全体で見れば、秀の指は神経質な繊細さを兼ね備え、細く見える。 だが、しっかりと大きく骨太い。 その感触が信じられないくらい心地よく、雪虎の意思に反して、腰がうねった。 対して、肩が竦む。 快楽の衝動に耐えるように。 入り口に触れられる、たった、それっぽっちの刺激で。 快楽の太い針が、雪虎の全身を貫いたようだ。前のめりに倒れ込みそうになる。 気力で、木格子にしがみついた。足元の畳を睨むようにした視界がボヤける。どうやら、生理的な涙がにじんできたようだ。 これほど、高ぶっているのは。 (祟りの影響、とか…言わないよな) 思えば、最初に秀を受け入れた時も、初めてとは思えないほど、快楽を強く拾った。 雪虎の身体は、よく知りもしない伝承に、支配を受けているのだろうか。 それとも。 本来、淫乱なのか。 「…トラ…!」 秀の、苦しそうな、声に。 雪虎はわずかに振り向いた。快楽に浮かんだ生理的な涙の膜のせいで、秀の表情ははっきり見えない。 だがきっと、―――――怖い顔をしている。極限まで水に乾いた人が、清水を目の当たりにしたような。 いくら入り口が解れても、その勢いのままねじ込まれては、雪虎が壊れてしまう。 なら、どうすれば一番いいか。 …一度、発散する必要がある。 「かい、ちょう、も…一回、出しましょう」 どこから何を、など。この場合に言う必要もないだろう。 そうすれば、少しは…ほんの少しだとしても、熱はおさまるはず。 「会長、の、その、…常識から外れた、モノ、を」 つい、大きさについて、皮肉気に言ってしまったのは、許してほしい。 木格子に向き直り、雪虎は息を弾ませながら、誘うように足を開く。 最初に秀の足を使って果てたのは、雪虎だ。だから秀も雪虎の足を使えばいい。 「俺の、内腿に、…当てて」 とたん、左の内腿に、濡れて、固く熱い巨きなモノが押し当てられた。 雪虎は大きく息を吐きながら、両方の内腿で、ソレを挟み込む。 そこから先は、―――――言う必要がなかった。 パンッ。 肉と肉が、ぶつかる音。 腿の間、突き込んでくる強さに、ガツ、と骨にまで衝撃が響いた。 快楽に、というより、その力強さに、すぐ、腰砕けになりそうになる。ただ。 突き込まれる瞬間は、分かりにくかった、が。 引き抜く動きに、腰が持って行かれそうになった刹那。 「―――――…ふ、ぁっ?」 腹まで反り返った雪虎の陰茎の裏側を、秀のソレが直接刺激した。 思わず雪虎の腰が跳ねる。

ともだちにシェアしよう!