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日誌・102 はらの奥(R18)

画面の中で、大河は。 形のいい唇で、勃起した男根を模した張形―――――黒いディルドに吸い付いていた。のみならず。 差し出された舌が、ちろちろとディルドの輪郭を這いまわる。夢見心地な、陶然とした表情で。うっとりと。 思わず目を覆いそうになるほど、卑猥な光景だ。 実際の雪虎はと言えば、表情と思考が消えた状態で、フリーズ。 黒いディルドを凝視。 (あんなもの、どこにあったんだ) 間違いなく、つい先ほどまでの画面の中には存在しなかった。 ということは。 先ほど、キーボード操作をしたことで、どことどこを押したか自覚はないが、画像が切り替わっただけでなく、画面内の時間も飛んだらしい。 あまりの衝撃に、雪虎の頭の中が真っ白になる。咄嗟に動くこともできない。 その間にも、大河の喉奥から、切なそうな声が漏れてくる。 ―――――ん、…っん。 苦し気に眉根を寄せ、大河はディルドを頬張っていた。 形のいい唇が、怒張を擬したモノに形を変えられていくのは、淫靡この上ない。 美味しいものを味わうように、ゆっくりと大河はディルドを口中で行き来させた。 大河のシャツのボタンは、すべてはだけられている。 彼が動くたび、シャツの合間から、色づき、尖った肉芽がつんと張り詰めているのが垣間見えた。 大河の唇が濡れひかり、その口を出入りするディルドが、唾液で輝いている。 一方で、そうしながら。 大河は、もう一方の手を下肢へ伸ばした。 指が忙しなく動き、画像の中で、スラックスを膝まで引きずり落とす。焦っているような、乱暴な動きだ。 なのに、下着がなかなか脱げない。汗で肌に貼り付いているようだ。 下着を脱ぐのに、苦労する表情が、もどかし気に、しかめられる。 荒い息をこぼしながら、腹立たし気に呟いた。 ―――――ぁ、普段、こんなにすぐ、勃起、しないの、に…っ。 カメラには映っていないが、どうも勃起した性器が下着に引っ掛かっているようだ。 言うなり。 覚束ない手が、ようやく、下着を丸めて腿の半ばまで引き落とす。 そこから、ぶるん、と陰茎が跳ね上がる。 それが腹を叩く、濡れた音が続いた。 とたん、解放感を覚えたように、大河が、深い満足のこもった息を長く吐きだす。それは、たまらない色気に満ちていた。 その間にも、大河の背中が小刻みに震えている。 ふらつく身体を支えるように、下着を下ろした手を、大河はベッドについた。 同時に、ディルドを掴んだ手が、背中へ回る。 ディルドの先端が、入り口にぴたり、と狙いを定めるなり。 薄明りの中、荒い息を吐きだす大河の唇が、泣き出しそうに震えた。 ―――――やっと…もう…っ、トラさんがそばにいる、と…お腹の、奥、切なぃ…っ。 ちゃんと、解したものか、どうか。 大河の手が、ぐうっとディルドを中へ押し込んだ。 大河のそこは、…ゆっくりと、しかし確実にそれを飲み込んでいく。 色々な、角度から。その姿は、はっきりと映し出されていた。 快楽に陶然と潤んだ瞳も。 赤い舌が覗く、半開きの唇も。 色づいた肌も。乳首も。 体液でしとどに濡れた陰茎も。 ディルドが、シミひとつない、形の良い尻の狭間に飲み込まれていくごとに、次第に雪虎の中で思考が正常に動き出す。 これは、いけない。見てはだめだ。他人の、自慰など。 なのに、視線が釘付けになってしまう。 それほど、全身をくねらせ、粘膜への刺激に悶える大河の姿は魅力的だった。 白い尻肉の間に、とうとう、漆黒のディルドがすべて飲み込まれる。 そのまま、気怠い態度で大河はベッドの上に座り込むように、へたり、腰を落とす。 ―――――ん…っ、ふぅ…。 座り込んだ大河は、身体を支えるように、背後に両手を突いた。 そのまま、ディルドの入った下の口をシーツに押し付けるように、して。 腰を回し、その場で円を描き出す。体内の感触を味わうように、ゆっくりと。 腰がくねる。 下腹が淫猥に起伏し、陰茎が戦慄く。 袋もこすられ、内腿が小刻みに震えた。 喉を晒すように仰け反った大河が、不意に、すすり泣くようにその名を呼んだ。 ―――――トラさん…っ、あ、は…っ。 見ていた雪虎の肩が、びく、と小さく揺れる。 とたん、大河が。 首を横に振り、もう快楽だけを追って、それ以外を何ひとつ考えていないのが分かる表情で、声を上げる。 ―――――義兄さん…! バンッ! 雪虎は、ノートパソコンの画面を、問答無用で閉じた。 自分に言い聞かせる。 何も見なかった。聞かなかった。 義兄と呼んだ刹那、大河が射精したのも。 その全身を震わせ、中で達したのも。 朦朧としながらも、今まで見たことがないほど、余韻に満ちて、満たされた、美しい表情も。 雪虎は無言で、パソコンが入っていた引き出しを開ける。元に戻した。 そこを閉じて、元通りに鍵をかける。 だからと言って、見たものをなかったことにはできないし、いずれ、雪虎が見たことを大河も知るだろう。 それにしたって、今回のは、マズい、気がした。 雪虎の名を呼んで、自慰にふけるなど。それはまるで、―――――…まるで。 思いさし、強制的に中断。いや、違う。そんなわけがない。 大河にとって、雪虎は気安いだけだ。大企業の後継者である『御子柴大河』の仮面をかぶらずに済む相手。 なにより。 雪虎は、普段の大河の態度を思い出す。 達観した目になって、ふ、と自嘲の息を吐きだした。 ―――――大河は雪虎を、バカにしているか、嫌っているか…いやまあ、正直言って、両方だと思う。 だから、緊急時の連絡も、大河ではなく、遼にしたのだ。 遼なら大概、大河の近くに控えているから、すぐ連絡もしてくれるだろうし。 勿論、間に挟まれる遼には悪いことをしているな、という自覚はある。 今回も、気の毒した。 (今度、お詫びをしないとな) 気を取り直し、雪虎はなんとなく、首を横に振った。 昨夜のことを、ふと思い出す。 夕食の後、眠気に負けそうになりながら、滅多に会わない伯父の膝に縋りついてくる甥っ子と姪っ子の可愛らしさにノックアウトされた雪虎は、早々に子供部屋へ引き上げて子守をしながら一緒に眠るつもりだった。 片づけは、二人が寝入った後でしにこよう、と心に決めたところで。 ―――――トラくん、トラくん。 御子柴の義父・大吾に手招きしながら呼ばれた。 ―――――君がウチに来るなんて、滅多にないことだからね。一緒に呑もう。 さすが、御子柴の直系だけあり、大吾も恐ろしいほど魅力的な男である。そんな彼が、ほくほくと嬉しそうに言うのだ。 はい、喜んで、という以外に返事を思いつかなかった雪虎を誰も責められまい。 さやかと義母が子供たちの世話を引き受け、残った男たちで呑んでいた時のことだ。 大河が一時、席を外した。 そのとき、大吾が、ずっと考えていたことだけどね、と何気なく切り出した。 ―――――トラくんは、ウチに来る気はないかい?

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