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日誌・141 とことん大胆(R15)

ただし。 (―――――分からないな) ビジョンが、見えない。 返る答えが、肯定にしろ否定にしろ、その先どうするか。 雪虎には、分からない。どうすれば正しいのか。 第一、恭也の言うことが本当だとして、その事実は、伝承を断つこと―――――即ち、雪虎の望み―――――に本当につながるのかすら、見通しが立たなかった。 (心持ち一つ違うだけで本当に、…すべて、変わるモノなんだろうか) 恭也が言っているのは、つまり、そう言うことでもある。 人間が、悪気なく思い浮かべる何気ない気持ち・想いが、現在を作っている、と。 彼は今、そう言ったも同然だ。 問題を口にした恭也はと言えば。 「鬼の執着心を侮っちゃいけない」 平然と、そんな言葉を口にする。 …おそらく、そのように言いながらも、恭也には。 自分の理論を強く主張するつもりなどないだろう。貫く気も。 彼にとっては、自身の言葉がどれだけ相手に影響するかが重要なのだ。大切なのは、内容ではなかった。 相手の反応だ。この場合は、雪虎の。 知っているのに、振り回されてしまう。 根拠もない無茶苦茶な言い分のようで、納得してしまう部分もあったからだ。 …あり得るかもしれない、と。可能性だけで、この場合は十分だった。 「でも不思議だよね」 雪虎の沈黙の重さにそ知らぬふりで、恭也は軽く言葉を続ける。 「祟り憑きがそんなに大切なら、屋敷の奥深くに閉じ込めて、出さなければよかったのに」 雪虎は、何の話だ、と一瞬思う。だが、そう言えば、代々の祟り憑きは。 雪虎の脳裏に、月杜家の地下にあった座敷牢が過った。 「解放なんてするから」 独り言のように、恭也は続ける。 「ほら、悪魔からも望まれる羽目になった」 恭也の身体の下で、雪虎が深く嘆息。 口を開いた。 「…俺を望むって、言うんなら」 その言い方で、恭也は察する。 雪虎は、悪魔の望み、というものを、軽く見ている。 雪虎から視線を放さないまま、恭也の目が温度を下げた。 …それは、執着や欲望に近いモノ、なのに。跳ねのけるべきだ。 軽い気持ちで受け入れるモノではない。 そもそも、この場限りのものでもなかった。 雪虎ときたら、肝心な部分を理解しないまま。 「お前、ちょっと、腰上げろ」 軽い調子で、そんな、ことを言って。 「…なに?」 どういうつもりか分からず、恭也がすぐに動きかねれば、 「これじゃ、俺も腰上げられないだろ。挿入れるつもりなら、解せ」 欲望むき出しの、男の脳みそを沸騰させるようなことを、平然と告げた。 恭也がどう言った存在であるのかを熟知していながら―――――強心臓である。 祟り憑き、などと言えば、弱者と感じるが。 恭也がどう考えても、雪虎は例外だ。 雪虎が自身を格下に言うたび、恭也は何の冗談だろうと感じてしまう。 彼自身は劣等感が強くて、目を見れば本気と分かるから、逆に困惑するほどだ。 猛烈に煽る誘い文句に、つい、恭也はまじまじと雪虎を見下ろす。 だが、よくよく見れば。 …耳が赤い。 しっかり羞恥心があるくせに、行動はとことん大胆。 思わず、無理やり、顔を見たくなった。が、かろうじで堪える。拗ねられたくはない。 雪虎の台詞一つで、一瞬、恭也は限界まで高ぶったことを自覚する。 達しはしなかったが、先端から溢れた体液で、既に下着が濡れ始めていた。 それを落ち着かせるために、へたなことは言えず、無言で恭也は雪虎の上から退いた。 うつ伏せになった雪虎の足側で膝立ちになれば、 「ん」 雪虎は短く頷き、やりにくそうに動く。それでも。 自ら、受け入れる獣の体勢になった。恭也の目の前で何も纏っていないむき出しの尻を差し出す格好だ。 恭也の喉が鳴った。 無防備極まる。 貫くような視線が落ち着かないのか、 「あのコイン、だけどな」 雪虎が口を開いた。 その声を聴きながら、恭也は吸い寄せられるように雪虎の臀部に手を伸ばした。 片手で、浴室から取って来ていたローションの蓋を開ける。 室内へ持ち込んだ時点で、自分に使うか雪虎に使うかは、分からなかったが。 (こう、なるなんて、ね) 雪虎の尻の上で、容器の口を下へ向けた。とろり、滴った液体が冷たかったか、雪虎の身体が、ピクリと跳ねる。 「…っ、魔女が、素直に…渡したのか?」 「ん? あぁ」 思わぬ問いかけに、高熱に浮かされたような頭が一時、正気に戻った。 軽く、頭を横に振る。 「トラさんは、まさか、ぼくがここへ何の準備もなしに来ると思った?」 雪虎の尻の狭間に流れ込んだそれを、恭也は自身の指に塗りたくった。 その指先で、雪虎の入り口を、掻くように、悪戯気に撫でる。 とたん、跳ねるように雪虎の全身が強張ったのが分かった。 反応の強さに、恭也は息だけで笑う。平然としているようで、やはり、雪虎は身構えている。 「トラさん」 強張りを解くように、雪虎の腰に、柔らかく口づければ、 「…わか…ってる」 雪虎は大きく息を吸った。吐きだす。 「それで…お前は何の準備をして来たんだ? 黒百合がいないのと関係あるか」 「ご明察」 軽く答えながら、恭也はローションまみれの指で、雪虎の尻肉を左右に押し広げた。 丸見えになった入り口を、犯すような視線で凝視すれば、雪虎の腰が落ち着かな気に揺れる。 その動きに、ふと思いついて、恭也が雪虎の前へ手を回せば。 「ふ…っ」 一度も触れていないのに、腹まで反り返った雪虎の性器が、しとどに濡れている感触が握り込んだ掌に伝わった。 「…へえ…」 揶揄のつもりはなかったが、恭也の呟きを、雪虎はそう取ったのか、 「はなせ」 不機嫌な声で、一言。 「そっちは…、使わな、いんだろ…っ。だから」 「だめ」 握り込んだそれを軽く扱けば、息が詰まったように、雪虎の言葉が止まる。 上ずった、雪虎の吐息に、耳から犯される気分になった。 つい、いじめるように先端に爪を立てれば、 「く…っ」 雪虎の腰が大きく跳ねる。 とたん、溢れる体液がどっと増えた。 指先がぬめる。 「…ああ…こっちのが、好き?」

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