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日誌・143 悪魔の抱擁(R18)

「は…っ、トラさんて、ほんっと」 格好いいな。 言うなり。 恭也の指が、雪虎の内部で、しこりのようなところを探り当てた。直後。 そこを、思い切り押し揉んだ。 「あ…っ? ひ、ぅ」 雪虎の喉から、戸惑ったような、悲鳴に似た声が駆け上がる。 もう、ゆっくりと段階を踏んで、など、優等生な行動などとれやしない。 乱暴に抉るように刺激を繰り返せば、雪虎の背が撓った。その腰が、耐えきれないように、前へ突き出される。 だが、恭也は許さず、ケモノの姿勢のまま押しとどめた。 緩く扱いていた、雪虎の前が戸惑ったように痙攣し、放つのを掌に感じながら、 「…ああ…っ、もう」 数を増やしていた指を、雪虎の中から引き抜く。滑りはいいが、まだ狭い。 ちゅぽ、と音を立てて引き抜いた手で、恭也は自分のズボンを下着ごと引き下ろした。 触っていないのに達しそうだが、どうせなら、雪虎の中でいきたい。 「ごめんね、トラさん」 恭也は、もう爆発寸前のモノの切っ先を、雪虎の入り口にあてがった。 ぬちり、恭也の体液とローションが、粘着質な音を上げる。 「待て…っ、まだ、」 雪虎が、上ずった声で、焦ったように恭也を止めようと口を開いた。分かっている。 雪虎の中はまだ狭い。それでも―――――恭也は止められなかった。 切羽詰まっていた。 限界だった。 だが、直後、…それ以上に。 突如、猛烈な緊張が腹の底からわき上がった。 なにせ、ここから先へ進めば、相手は皆。―――――…みんな。 悪魔の抱擁は、いつだって正確に、相手に死をもたらした。 これほどの欲望が生じたことは、逆に恭也にとっては幸いだったろう。 でなければ、きっと一生、雪虎とはここから先へ進めなかった。 そして、雪虎に今の恭也の表情を見られなかったことも、幸いだ。 きっと、情けない顔をしている。 せめて、噛み締めるように、…切実な声で乞うた。 「お願い、壊れないで」 身勝手なことを言っている自覚ならあった。だが、壊れたなら壊れたで。 恭也が骨まで残さず引き取ればいいだけの話だ。 ぐぅっと腰を進めた。乱暴に、入り口へカリの部分まで押し込む。 雪虎の両手が、溺れるようにシーツを強く掴んでいるのが見えた。そこに縋っているのかと思えば、無意識の動きでも嫉妬を覚える。 これではまるで、一方的で、…嬲っているみたいだな、と思うなり。 恭也は、不意に。 ―――――かなしくなった。悔しくなった。 地団駄踏んで、暴れ回って、不甲斐ない自分自身の責任を、どうして、と周りにたたきつけたくなる。 信じてもいない、神を呪うように。 恭也は。 自分が『こう』であることを、今では骨の髄まで受け入れている。受け入れて、いるが。 雪虎と出会ってから、ひとつだけ、思うことがある。 ――――――なぜ、誰も教えてくれなかったのか。正しい愛し方を。 (ねえ、どうして) だから、冗談めかして尋ねるのだ。どうやればいいの、と。 誰かを大切にしたいとき、どう行動するのが正しいのか、恭也には見えない。 人殺しの方法ばかり研鑽した、その報いがこれだろうか。 呆然と思ったその時、一瞬、恭也の思考に空白が生じ―――――…その衝撃は、すぐにきた。 それは、猛烈な悦楽。 刹那に放ちそうになり、危うく堪えた。 「…っは、なに…っ」 それは、雪虎の内部がうねる感触だ。 彼の背中は、緊張にか痛みにか、強張っているのに。 中は、蠕動しながら、侵入者である恭也自身を、飲み込もう、もっと奥へ招き入れようと締め上げてくる。 おそらく、恭也が思考の渦に呑まれ、動きが止まることで、雪虎の内部が恭也に慣れる時間が生まれたのだろうが…それにしたって、これは。 「く…っ、す、ご…しまる…っ」 いつもの調子で、無理やり押し入らなければならない、と思っていたのに。 こんな形で、―――――相手から、招かれる、とは。 オスとしては、初めての経験だった。いつだって、力づくで。こんな。 …こんな、セックスは。 は、は、と耳に届く、刻むような息遣いは、恭也のものか、雪虎のものか。 (だけど、まだ、…狭い) 思う合間に、雪虎が、切羽詰まった声を上げた。 「あ、…ぁっ、おまえ…ゴム、は」 言われて、気付く。そう言えば、していない。だがもう、今更だ。いや、そもそも持っていなかった。 だから、素直に言った。 「ごめん、もう無理」 「な」 雪虎が言葉に詰まる。 その隙に。いっきに、腰を進めた。狭い隘路を押し開いて。 先端が、奥を突く。直後、 「…は、ぁ!」 雪虎が上げた、色艶のある声を、なんと言えばいいのか。それだけで、もう駄目だった。 恭也は息を詰める。 「…く、」 気付いた時には、既に達していた。 堪えようもなく、震えた性器が欲を吐きだす。雪虎の奥をしとどに濡らした。その感触が嫌なのか、 「ぃや、だ…っ」 恭也が放っている途中で、雪虎の身体が弱く逃げを打つ。 前へ、ずり上がろうと動いた。 そうやって、奥を貫く恭也を身体から抜こうとしたのが分かった。だが。 「だめ」 荒い息の中、恭也は身を乗り上げる。手加減なく、雪虎の腰を掴んだ。 左右から両手で。 その上で、既に根元まで入っているソレを、まだ入るだろう、と言わんばかりに強く押し付けた。 身体の下で、余裕なく雪虎が頭を横に振ったのが見える。 対して、見下ろす恭也は満腹の獣の態度で笑った。 それは―――――獣がするマーキング行為の最たるもののようで。 (注ぎ込まなきゃ…溢れるまで) 快楽に浮かされた頭の中、オスの本能が、拷問めいた行為を望んでいる。 一度目を放ちきるまで、どれだけの時間がかかったのか。 それでも、ひどいような快楽は、いっそ苦痛に似ていた。 なのに、恭也の射精感がなくなることはない。萎える気配もなかった。…なにより。 熱がこもったような空気の中で、―――――冷たい死の気配は欠片もない。 生きている。 お互いに。 この事実が、不意に、恭也の胸に何かを芽吹かせた。 (満たされる、って…こういう、)

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