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日誌・144 蜜をたらしたような(R18)

もう逃げる様子を見せない雪虎が、ぐったりと恭也に身を任せている姿に、思わず恭也の喉が鳴る。 直後、イチモツを性急に引き抜いたのは、気遣いでも、行為をやめるつもりがあったからでもない。 「ぁ…?」 恭也に肩を掴まれた雪虎が、呆然とした声を上げる。 その合間に、恭也は雪虎の身体を仰向けにひっくり返した。 雪虎の表情は、どこかぼんやりしている。いつもしっかりした眼差しが朦朧と泳いだ。 その合間に、恭也は引っ掴んだ枕の一つを、雪虎の腰の下へ敷く。 そうなってようやく、雪虎の目が、恭也の顔へ焦点を合わせた。 とたん、何かを堪える態度で唇が引き結ばれる。 気まずげに視線が横へ流れた。 うつ伏せのままでは、それらの表情が見えない。だから、身体をひっくり返した。 どうしても、恭也は、雪虎の顔を、表情を、見ていたくて。だが。 これは諸刃の剣かもしれない、と恭也は遅ればせながら思う。 萎えるどころか、表情を見るなり、もう放ちたくなって、ソコがずくずくと疼いた。 元より、雪虎には毒気の強い色気がある。 それは端から性的なものと言うより、媚びがない自然体の姿勢と、他人に対してこれと言った壁がないせいだろう。 もちろん、雪虎が壁を作らずとも、彼に対して壁を作る者の方が多いから、それに気づく者はそう多くない。 恭也は、大きく息を吸い、吐きだす。 自身を、とにかく少しでも落ち着けよう、と。 それでも息は荒いままで、どうにかそれを押さえながら恭也は雪虎の足を押し開いた。 抵抗はなかったものの、微かに雪虎の身体が跳ねる。身構えるように、雪虎の視線が恭也の下半身に向いた。 一瞬、その目に怯えのようなものが走ったのに、恭也は息を整えながら、真顔で言い聞かせる。 「…大丈夫。さっき、全部入ったじゃない」 宥める気分で、反り返ったままの雪虎の男根を撫で上げた。 腰の下へ枕を敷いているから、仰向けの雪虎は、上へソコを突き出すような姿勢になっている。 雪虎は一度息を詰め、顎を引いた。 その手が上着の裾を握り、前を隠そうと動いて、寸前、堪え、ぎゅうと服を握り締めて止まった。 それを横目に、自身のソレを雪虎の腿の内側にこすりつければ、睨まれる。 いつもの通り、雪虎の視線は鋭く、男らしい。なのに、目尻が赤く染まっている。 たったその一点が、いつもと違うが、その違いだけで、眼差しに蜜を垂らしたような色香が濃密になった。 「今度は、ちゃんと、外へ出せ」 肩で息をしながら、雪虎は言い聞かせるように言う。 恭也は少し、視線を逸らした。 真っ直ぐ見ていては、また、情けない結果になりそうだったからだ。それに。 (この、衝動のまま、いつもみたいに、…突き進んだら) 今度こそ、雪虎を傷つけないだろうか。 切っ先を、雪虎の入り口に甘えるように押し付けながら、恭也は眉を顰める。 ―――――だからと言って、どうすればいいのか。 苦しいような表情で、思いさした刹那。 「…だいじょうぶだ」 ふ、と恭也の頬に、温かな掌が触れた。びく、と身を震わせれば、 「死ななかったろ」 まだ、息を乱しながら、上半身をわずかに起こし、恭也の顔へ手を伸ばした雪虎が、そんなことを言った。 とたん。 恭也の脳裏で、閃くように、答えが響き返る。 ―――――知っているじゃないか。愛し方なら。教えてもらったろう、何度も。 目の前にいる、このヒトに。 …ああ、そうか。 (トラさんみたいに、すれば、いいんだ) とたん、ふ、とわずかに恭也の先端が、雪虎の肉の間に沈んだ。刹那。 ―――――とろり。 かき分けられた肉の中から、体液が溢れ、零れる。それが、何か。 言われるまでもない。先ほど恭也が放った子種だ。 ソレ、が。 中を伝う、感触にか。 肌を伝い、滴る感触に、か。 雪虎が目を瞠った。ふ、と息を吐く。その肩が竦んだ。 一瞬、泣きそうになった、雪虎の表情に。 「許して」 恭也が短く、うわごとめいた口調で言うなり。 「あっ、…ぁっ?」 中途半端に起こしていた雪虎の上半身が、崩れ落ちる。シーツの上に背を埋めた。 中へ、恭也が傍若無人に押し入ってきたからだ。だが。 一度目の行為とは、…何かが違った。 一方的、なようで。反応の一つ一つを、観察されているような。じっくりと、細部まで。 侵入の感覚に、雪虎の下腹部が堪えようもなく痙攣した。 恭也の手が、雪虎の膝裏を捕らえる。 そのまま肩へ担ぎ上げるように、すれば。 また、力が加わる場所が変わって、くすぐったいような、疼くような快楽がさざ波のように背筋を這いあがってくる。 「ね、トラさん、…ここ」 言いながら、内部のしこりをぐりっと先端で捏ねられた瞬間、 「く、ぅ…っ」 雪虎の背中が反り返った。内腿が震える。 恭也の手の中で、雪虎の陰茎がのたうつように痙攣した。 恭也は影のない、晴れやかな表情で微笑んで、 「ああ、やっぱり…好きなんだ」 「てめ…!」 そんなことをされると、むしろ、一方的なやり方の方がありがたくなってくる。 それ以上、同じところを突かれれば、だめになりそうで、止めるために思わず雪虎が口を開いた刹那。 恭也がいきなり、腰を引いた。 粘膜をこすり上げる刺激に、雪虎の唇から泣き出しそうな息がこぼれる。直後。 「…あぁっ!」 先ほどと同じところを、思い切り突き上げられた。 そのまま、位置を変えず、執拗に抉るように動かされる。ぬち、くち、と粘液が派手な音を立て始めた。 同時に、雪虎の陰茎も扱き立てられる。 震える先端を指の腹で押し揉まれた。 雪虎の背が撓う。顎先が仰け反った。 身体が浮き上がるような心地に、悶えるように雪虎の腰が動く。 中の剛直を、粘膜が強く締め上げているのが、雪虎にもよく理解できたが、 「はぁ…っ、トラさん、ちょ…っと、緩めて」 恐ろしく艶のある声で、恭也からそんな風に促されたところで、 「無、理…!」 意志でどうにかできるものでもなかった。 返事ができただけでも上等だったろう。 だいたい、その間にも、恭也には動きを止める気配がない。 「少し、止ま…っ」 「―――――トラさん」 不意に、真摯な声がして、寸前までの雰囲気の違いに、戸惑った雪虎がぱちり、と瞬きした刹那。身体を、ぐっと折り畳まれる感覚があって、 「…は…っ」 いきなり、強く顎を掴まれた。と思った時には。 口付けられていた。 喘ぐ唇の隙間に、舌が差し込まれる。 一瞬、思考が止まった、とたん。 ―――――一気にもっと押し進んだ恭也のモノに、腹の奥を思い切り突き上げられていた。 直後、じん、と痺れに似たものが稲妻のように頭のてっぺんから足の先まで走って。 雪虎の全身が、硬直。 息すら忘れそうな強烈な感覚に、今自分が何をしているのかも、雪虎は一瞬分からなくなった。 何かに支配されるようなその衝撃は瞬く間に消え、とたん、雪虎の身体が痙攣する。 その間にも、ねっとりと口の中を蹂躙され、雪虎は次第に意識が朦朧としてきた。 それは、一度目のような、自分勝手なものではなく―――――。 「…ん、イかなかったの、トラさん?」 濡れそぼり、その上でまだ体液をふりこぼす雪虎の陰茎を撫でまわしながら、恭也が唇を放す。 確かに、雪虎の前は放っていない。だが、 「違うよね。イってるよね、今。…中でイった? あぁ、こんな顔、するんだ…」 雪虎の顔を覗き込み、頬を片手で包み込みながら、恭也はわずかに腰を引いた。 その感覚だけで、また雪虎の内腿が痙攣する。 すぐ、泣きそうな声で、雪虎は必死に言葉を紡いだ。 「―――――あ…っ、動く、な…!」 「なんで? 感じる?」 どこか上の空で恭也が言葉を紡ぐなり。 ―――――トン、とまた雪虎の奥を先端が突いた。 とたん、雪虎は、自分でも信じられないような嬌声が喉奥から飛び出したことに、死にそうになる。 もっと、と強請るように、下腹部を恭也に押し付けるようにして、悶えた。 …身体が、勝手に。 じわり、目尻に涙がにじんだ。 気持ち良さと羞恥で死にそうだ。 だが、確かにこうなったなら、抵抗するより、あとはとことん気持ち良さを追求するのが利口だろう。 溺れるように、夢中で動いているような恭也の動きにも、もはや、危機感を覚えない。 むしろ、悦すぎる点に危機感がある。 受け身の快楽など、本当は覚えたくなかったのに。 また、自身の性欲の強さが裏目に出た。泣きたくなる。 恭也は投げ出された雪虎の両手を取りあげ、指を絡め、二人で作った拳を雪虎の頭上に押し付けた上で。 「は…っ、トラさん、―――――ゆきとら」 ねえ、と耳元で囁く。 「名前で呼んで」 甘えるような声が、雪虎の鼓膜に絡みついてきた。 雪虎が、甘えられるのに弱いと知った上で、…これだ。 雪虎は、観念した態度で目を閉じた。 負けはもう、決まっていた。

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