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日誌・191 理の反転(R15)

「なら、ますます、分かりませんね」 真面目に考え込む表情で、雪虎は秀の首筋を舐め上げる。 秀の身が竦んだ。 だんだんと、秀の思考が朦朧とし始める。 「わからない、とは…なにが、だね」 「月杜は」 ちゅぅと音を立てて秀の首筋を吸い上げ、濡れた肌を息でくすぐるように、雪虎は言う。 「この地の守護者、みたいなもの…でしょう?」 雪虎は、ちらと視線を上げた。その目に。 男らしい精悍な顔立ちを上気させ、目を伏せて動くことを堪える秀の顔が映る。 雪虎が、我慢しろと言ったからだ。 律儀に言うなりになる必要はないはずなのに。 大きな男が、雪虎の言葉に従い、健気に耐えるその様は、一言で、 (―――――たまらないったら) 馬鹿正直にそう思った。 品がないと思ったからこそ、思うだけでとどめた。 ただ身体は正直なもので、雪虎の興奮は、いっきに最高潮に達する。 ずきずきと痛いほど勃起した自身を、心の中で宥めながら、雪虎は抑えた息を吐いた。 「守護者だから」 ふと、雪虎の目に、秀の耳が映る。 真っ赤に染まっていた。 「この地で尊重される。―――――ですよね?」 囁きかけながら、柔らかく耳朶に噛みつく。びくりと秀の身が震え、 「…っぁあ」 分厚い胸が、激しく喘いだ。―――――高まってきている。 視界の端に、未だ触れていない秀自身が映った。 (触られずにイったらご褒美あげないと、な) 意地の悪いことを考えながら、一度、耳の穴へ舌を差し込み、わざと水音を立てて舐め回す。 秀の息がさらに乱れた。 されるがままの身体が、緊張し、そのくせ、抑えがたいように小刻みに痙攣する。 それを全身で楽しみながら、雪虎は睦言のように囁いた。 「守護の力の正体が、…―――――この地への恨みのため生じた祟りなんて、どうやったらあり得るんです?」 少し考えればおかしな話だと、子供でも理解するだろう。 この地を祟るほど恨み抜いた者がどうして、この地を守る力となるだろうか。 祟りなど、破滅を呼ぶ塊だ。 存在だけで、周囲を闇の顎に飲み込むだろう。 というのに、月杜家はこうも発展を遂げている。 屋敷は緑豊かで、命に満ち溢れ、穏やかな静寂の中、動物たちがごく普通に営みを続けていた。 どうなっているのか。 月杜家の現在の繁栄は、即ち、…おかしいのだ。異常なことが、この地で起きている。 「矛盾、してますよねえ」 きっとこの話は、月杜の存在にある、核心そのものなのだろう。 答えないならそれで構わなかった。 言いながら、雪虎の指先は、秀の胸の肉粒を弄り倒している。 臍のあたりをまた押せば、秀の下腹付近に緊張が走った。 秀の息が詰まる。 「トラは…っ、正しい、よ」 秀はふっと薄く息を吐き、 。 「だが、…ゆえに」 昂ぶりを示す荒い息を無理におさえながら、秀は言った。 「無理やり、両立させたのだ」 「両立?」 ―――――なんだろうか、今。 当たり前の理を、力づくでねじ伏せた、そんな言葉を口にされた気がする。 なんだか続きを聞くのが怖くなった。 ちらり、雪虎は秀の下肢を見遣る。 …もう、限界が近いのは、はっきりしていた。それはお互い様だったが。 多分、二人とも、先走りで下着はもうしとどに濡れている。 それでも秀は、先ほど一度の控えめな懇願以降、雪虎にソコへの慰めを要求したりはしていなかった。 臍のあたりに触れていればわかる。 秀の下腹はヒクついていた。限界なのだ。 このまま、我慢させ続けるのも、楽しそうだったが。 秀の様子を特等席で見続けている雪虎自身が、先に限界を迎えそうでもある。 勃起した秀のそこは、触れ、と雪虎を誘惑しているようでもあった。 正直、いますぐ全部脱がして、心行くまでまずは目で犯したい。 そう。 はっきり言えば、雪虎の方が限界だった。 (自分から仕掛けておいて、根負けなんて、な) 自分で自分に呆れながら、つい、悔しい心地のままに、秀の乳首に強く爪を立てる。刹那。 「―――――ッ」 びくんっ、と秀の身体が跳ねた。 一瞬、雪虎は秀の身体から転がり落ちるかと思った。 それほど、激しい反応だ。 雪虎は慌てて秀にしがみつく。そうすることで。 秀の身体に走った痙攣を、全身で感じる。 しがみついた拍子に、雪虎のモノも、秀自身に押し付ける格好になって。 ソコで、雪虎は秀の陰茎がびくびくと跳ねるのを敏感に感じ取った。 その感覚が、雪虎を底なしに煽る。 思わずといった動きで、雪虎は自分自身を秀に、ぐりぐりと押し付けた。 秀が息を呑む。 何かに耐えるように、拳を握った。 その耳元で、雪虎は囁く。 「いーっぱい、出てますね…あぁ、ほら、また…おもらし、気持ちいい、ですか」 長く放ったかと思えば、雪虎の動きに合わせて、また、秀が震えた。 秀が頭を振る。 「…すまない、トラ、出る、から…くっ」 秀が、気持ち良さに溺れきることもできず、快楽と射精に罪悪感を覚えたような顔をするから、雪虎としてはますます悪戯をしたくなる。 「離れろって? だめですよ、俺も気持ちよくしてくれないと」 近い絶頂の予感に、雪虎はもっと秀の身体に密着した。 そうして、勢いのまま。 口づけた。 秀が、逃げ場もないのに身を引こうとする動きが伝わる。 それを追って、強引に舌を唇の間に差し込んだ。 ぬるつく粘膜の感触と、戸惑う秀の舌を強引に絡め捕る興奮に、 「ん…っ」 とうとう、雪虎も達した。直後、 (そう言えば) 性懲りもなく、また思い出した。 昔、まだ少女のようだった秀と身体をつなげた時のことを。 ―――――ひどいやり方をしたのに、秀はしっかりと快楽を拾った。むしろ、痛い方がいいような反応で、それが逆に若い雪虎を煽ったが。 (今はそう言うのは、かわいそうって気持ちが勝ってできないんだけどな…) とはいえ、本音でそう言うのが好きだと分かる相手なら別だ。たとえば。 ―――――御子柴大河。 思うなり、自分で自分が嫌になる。 (こういう時に、他の相手を思い出すってどうなんだ…) 秀の舌先がぎこちなく応え始めた頃、雪虎は唇を離した。 下手に動くなと脅すように、達しながらもまだ固い、互いの雄同士を重ねたまま、荒い息を繰り返す秀の顔を覗き込む。とたん。 微かに目を瞠った。にやり、笑う。 (…イイ顔になってきた) 雪虎がほしくてたまらない、と言った表情だ。 それでいて、組み伏せてほしい、と望むような媚態もまた、あって。 正直に、思った。 ―――――可愛がりたい。 ただその前に。 きちんと聞いておかねばならないことがあった。 雪虎は口調を改める。 「教えてください、会長」 秀の頬に唇を落とし、雪虎は慎重に言葉を選んだ。 「この地への守護と、この地への怨念を無理やり両立させたって…どんなふうにですか」 顔を離し、雪虎が秀を目を合わせれば、 「…ああ、そのことかね」 雪虎と目が合うなり、ようやく見てくれた、と言わんばかりに彼は嬉しそうに微笑んだ。 (嬉しそうってか…しあわせそう…?) 正直に言おう。 ―――――ものすごく、心臓に悪い。 下手なことは言えない感じになる。 それは。 転がるように足にまとわりついてくる子犬を蹴飛ばさないように慎重になる、そんな心地に似ていたかもしれない。 こういった表情を素直に向けてくる相手に対して、雪虎はよく、ああも反発し続けられたものだ。 過去の自分を、ある意味で、褒めてやりたい。 どこまでひねくれていたのだ、と。 「月杜の地においては」 直後、秀は、何か、信じがたいことを口にした。 「理が、反転しているのだよ」 「…なに?」 秀の台詞が、とんでもないことだということは、感覚で察したが、だからと言って、その一言で詳細を察せるほどの知識は、雪虎にはない。 秀は呆れたりしなかった。 考え深げに言葉を紡ぐ。 「即ち、破滅に向かうはずの力を、正反対の方向へ向かうように術式が組まれた」 ―――――はい? やはり、一瞬、何を言われたのか理解できなかった。しかし、 「…な」 すぐ意味を察した雪虎は、結局、何も言えず、絶句してしまう。 これだけの繁栄の力は、即ち、本来破滅へ向かうものなのだ。つまり。 (この土地は、文字通り、地獄の窯の上にある、と)

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