日誌・１９４　なかったことにはできない（R15） 雪虎は、目の前の裸の胸に手を置いて、 「さあ、今度こそ、…動かないように？」 すぅ、と胸と腹を撫で下ろすように、下へ下ろした。そのままもっと下げ、 「…くっ」 秀の性器まで撫で下ろせば、頭上で彼が息を詰めたのが分かった。 「ああ、…いや、どうせなら」 触れたそれを布越しに、小動物でも可愛がるように撫で回しながら、雪虎は秀の耳元で囁いた。 「俺の言うとおりにしてください」 幼子の素直さで、律儀に頷く秀に、雪虎は小さく笑って、 「帯を解いて」 囁いた。 秀はわずかに逡巡して―――――従った。 しゅるり。 帯をほどく衣擦れの音が、静かな室内に響く。 やがて完全に解けたそれが床に落ちた時、雪虎は秀の着物をはだけた。 現れたのは、男として完璧な造形美の肉体。 身体の分厚さは、迫力ある圧迫感を見る者に与える。 すこし息苦しくなると同時に、見惚れずにはいられない。そして。 ―――――何度見ても、凶器としか思えないイチモツ。 つい、まじまじ見下ろしてしまう雪虎。こんなものがよく体内へ入ったものだ。 （…まあ、何度も大丈夫だったんだ。今回だって平気さ） 大胆にそこへ手を伸ばす。 じかに触れれば、むき出しの傷口に触られたかのように、秀の身が震えた。 大きなそれを、雪虎は両手で包み込んだ。そぉっと捧げ持つように、して。 不意に、強く扱く。わざと、音を立てて。 最中、体液をこぼす先端に、爪を立てた。 秀が、息を詰める。 泣くように震える息を吐いた。 そのまま、先走りで濡れる先端を、指先で体液を拭うようにぬちぬちと弄る。 意地悪く手を動かすうちに、雪虎も、熱に浮かされた心地になってくる。体奥が疼いた。 ―――――流されてしまえばいい。きっと、気持ちがいいはずだ。 秀が与える快楽は、内側から全身を揉みしだくようで、芯から蕩けられる。 秀のイチモツは、本当に信じられないくらい大きいが、雪虎の身体が頑丈…と言えるのかどうか、アレを受け容れたとしても、翌日には身体は元の状態に戻っていた。そう、戻るのだ。大きな声では言えないが…緩んだままとかいう恐ろしいことにはならない。 あそこまで無茶をされたなら…通常は無理だ。 不可能だ。 こんなデカブツを受け入れておいて。 つまりは雪虎の身体はその点、おかしい。 地下で秀に好きにされた時には、一時、身体がダメになる覚悟はしたのだが…腰に痛みはあっても、翌日には普通に戻っていた身体に、逆に雪虎は青くなったものだ。 （これが鬼やら祟り憑きやらの血を引く恩恵とかだったら…色々微妙だな） まあ、いい。 雪虎は、秀の肩に手をかけた。 そのまま、足を秀の膝から降ろして、前かがみの状態で、自分のベルトに手をかける。 もどかしい気持ちのまま、乱暴に下を脱いだ。下着ごと、脱ぎ捨てる。 外気に触れた雪虎のモノも、既に力を持ってびくびくと勃ち上がろうとしていた。 正直言えば、この時まで、ここから先へ進んでどうするかを雪虎は考えていなかった。 つまり、秀相手に、挿入するか、受け入れるかを。 雪虎としてはどちらでもよかったが、男だ、挿入の欲求が強い。しかし。 秀を上目遣いに見遣れば、じっと雪虎を見ていた。いつも通り、静かな目で。 この秀が、仕事をする環境に、ローションなど持ち込むような男とは思えない。 それに。 秀の体調が、今は万全ではない。 一晩徹夜するくらい、彼ならばどうでもないのかもしれないが。 男同士のセックスで、負担が大きいのは、きっと受け手の方だろう。 なにせ男の身体は、男を受け入れるようにはできていないのだから。ならば…、 （よし） 決めるのは一瞬で済んだ。 雪虎は、再度、裸の足で、秀の膝に跨った。その上で、秀の体液で濡れた指を口に含む。 「トラ」 秀が驚いたような声を上げる。見上げれば、瞳に否定的な色合いが見えた。 何かと思えば、 「お前がそんなことをする必要は」 言いさし、言葉を失ったように息を呑む。 雪虎の行動を、咄嗟に止めようとしたのか、秀の腕に力が入るなり、ぎゅっと拳を握った。 どうやら、雪虎が秀の体液を口に含んだのが気になるらしい。 「…、必要が、あるんですよ」 雪虎は、たっぷりと唾液で濡らした指を、背中側で降ろす。そのまま、 「準備をしないと受け入れられないで、しょう」 自身の入り口を撫でた。そこを確認するなり。 思い切って、中へ指を潜らせる。 一瞬、無意識で息を詰め、どうにか意識して吐き出した。 「…準備？」 すぐ、雪虎が何をしているのか察したらしい秀が、戸惑ったか、微かに声を揺らした。 （されるがままでいながら、どういうつもりだったんだか、この人は） ふう、と細く息を吐きだしながら、雪虎は秀の肩口に額を押し付ける。 俯いた視線の先で、反り返ったままの秀の先端から、また、先走りが溢れた。 「あんたのは、…大きいんですから」 おおきい、という表現すら可愛く感じるくらいだ。 雪虎の指が数本入った程度で解せたと言えたものでもないだろうが、しないよりはましだった。 雪虎の動きは、その背を見下ろす秀の目にはよく映っただろう。 わざと雪虎が、わずかに尻を持ち上げれば、飢えたもののように秀の喉が鳴った。 雪虎がそれに薄く笑えば、 「トラは、―――――私から距離を取るべきだ」 真面目そのものの口調で、秀。 でなければ世界が亡ぶ、とでも言い出しそうな深刻さだ。 高まっていた熱が、ふ、と冷めるような語調。 いきなり、なんだ。鼻白み、雪虎は顔を上げた。次いで、…目を瞠る。なにせ。 基本的に無表情な秀が、珍しく。 眉間にしわを寄せ、渋面になっていたから。その上、 「話を聞いた以上、危険は、承知しているだろう。なのになぜ、このように」 息苦しそうな声で、 「平気で交われる？」 …そんなことを言う。 確かに雪虎は、秀ほど状況を理解できていないに違いない。 それでも、話を聞けば不穏が多いことを察するのは可能だ。 これまで生まれた祟り憑きたちが発狂したこと。 月杜家の人間が祟りそのものであること。 雪虎の未来に、明るいことを想像するのは難しい話ばかりで。 ―――――正直、ぞっとするが。 「…はは」 雪虎は乾いた笑いを上げた。今更だ。 生まれてから築かれた、良い縁も悪い縁も、なにもかも。 もう、なかったことにはできない。 「忠告しながら、…離れろ、とは言わないんですね」 「トラ」 冗談ではないのだと窘めるような呼びかけに、 「本音ですか、会長」 聞きながらも、雪虎は自身をほぐす手を止めない。 狭いソコは、最初は痛みや違和感が強かったものの、次第に違和感だけになってくる。 やがてそれにも慣れてくるだろう。 幸い、それによって雪虎の前が萎えることはなかった。 先端が零す体液を指に塗り込め、またぬめりを足しては指を挿入する。 「本気で、俺に、会長から距離を取ってほしいですか。…今まで通り？」 刹那、秀はどこかが痛むような顔を見せた。