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side Butler 1

 ぼっちゃんはちょっと個性的な目つきをされていて、そこがお可愛らしいのに自覚がないときている。  幼い頃、その目でおねだりをされて負けてしまい、何度旦那様から(主にぼっちゃんが)お叱りを受けたかは、数え切れないくらいとしか言いようがございません。 「ごめんって、急に都合がつかなくなったんだよ」  携帯電話で喋っていると言うのにペコペコと頭を下げるのは、社会人になってからの癖ですね、あまり人に頭を下げることを覚えて戴きたくはないのですが、しっかりと仕事を学んでおられると思っておきましょう。 「あー……久し振りに怒られたな」 「旦那様もお帰りになるのを楽しみにされていましたので」 「そ  なんだけど、さ」  つんと唇を突き出して拗ねるのは、自分に非があるのが分かっていながら謝れない時の癖で。  でも今回のことに関して、ぼっちゃんが悪いと言うことはないと思いますよ? 「お小さい頃から変わられてませんね」 「一緒に何回も怒られたな」 「371回でございます」 「     」  星の数よりは少ない数字ですが、私きちんと覚えておりますよ。  ちなみにこれは一緒に怒られた数で、ぼっちゃんだけが怒られた数はもう少し多いのですが…… 「数えきれないでいいんじゃないかな」 「建前上はいつもそう言います」  ちらりとこちらを見上げて、見上げて  見   やがて諦めて溜め息をお吐きになる。 「もういいや」  切り替えが早いのも、美点です。  流石と思うのですが、その目はまだ三船に心残りがあると物語っていますよ?  しかしまぁよくも毎回毎回、似たようなタイプを連れてくるのは、ぼっちゃんが反省点を活かせないと言うことで……  ちょっと教育のし直しがいるかも知れませんね。 「あーあ、この休みの予定丸っと空いちまったな」  これは返事の要らない独り言。  車窓の向こうを眺めながら唇を引き結ぶお姿は惚れ惚れするほどご立派で、将来風見財閥を率いて行くのに相応しい横顔です。 「木村。どっか行くかぁ?」 「ご希望はございますか?」  幾つか近場のホテルを押さえてはおりますが、気まぐれ……いえ、自由を愛される方なので押さえ残しがあるやも知れません。  こう言う時は、やはり長年お側にお使えしていても落ち着かなくなりますね。 「なんか、適当に、北半球で」  おおざ  いえ、大きなお考えを持たれるのは良いことでございます。 「承知致しました」  強くなり始めた日差しに少し目を細めてらっしゃるので、少し涼しげな場所にいたしましょう。  この木村、ぼっちゃんのことはちゃんとわかっておりますよ。

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