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◇ ◇ ◇
「ハールゥー」
駅前に到着早々、ヤンキー座りでタバコを咥えていた男に声をかけると、よっと手をあげて返される。
のったり歩み寄る俺を見つけた男は、ライトブラウンのレザーシリンダーにタバコを押しつけて立ち上がった。
ニィ、と笑うこの男が、俺のマブダチ。
野山 春木 ──ハルだ。
「あはは、相変わらず真っ赤ね」
「お前も、相変わらず真っ白だな」
二人してお互いの髪を触り合い、ニシシと笑う。
ハルは形こそ落ち着いたサラサラヘアーだが、ドン引きするほど真っ赤な髪色をしている。ほんと、赤ワインに頭浸したのかってぐらい。
服装はうすらとボーダーの入った黒のVネックに、シンプルなベージュのチノパン。紺のスニーカーはアクセントがひとつ。
顔立ちもパーツの整った端正なものだが、派手な顔立ちではないので、カラーだけが浮いている。
そんなちぐはぐ男、ハル。
けれど俺は人混みで見つけやすいため、この髪色を気に入っているのだ。
昔そう言うと、俺もお前の髪色好きだぜ、とケタケタ笑っていた。
そんなハルと俺は波長が会うのか、セックスなしの貴重な友人としては、最長の付き合いだったり。俺は広く浅くの交遊関係。
気分屋でマイペースな俺とこうも長く付き合えるとは、ハルめ。なかなかやりおる。
「今日はなんだよ」
「服見てえの。こないだ飽きた服全部売ったから補充ー」
「あ〜? お前ほんと、いらなくなったらすぐ手放すじゃねぇか」
「そ? だって飽きたら俺二度と着ねーもん。じゃああってもジャマっしょ?」
「くく、そりゃそーだな。合理的だ」
一斉処分の癖がある俺の飽き性に呆れるハルだが、それでも最終的には笑って納得した。
ハルはこう見えて現役のスタイリストだから、服とか買う時はよく付き合ってもらう。
なんとかカラーとか骨格とかタイプとか、いろいろの兼ね合いで選ぶ色味とサイズ感と形があるんだってさ。知らんけど。
仕事だとテーマに合わせながらもぶっ飛んだスタイリングをすると専らの噂。真偽は不明だ。
俺にコーディネートをする時はいろいろを兼ね合わせつつ、うまく大衆に紛れられるように個性を消した。
目立つからねぇ、俺の髪は。
脱色なしのこの髪は、元々くすんだタバコの灰のような色をしている。
生まれた時は黒かったんだけどネ。まーそゆーことで、いっそ逆に? 染めた。
ハルは俺が目立つと嫌らしい。
なんで服は割と大人しい、大衆向けの量産型コーディネートを着せられる。
そしてその目立つ俺の髪をいじるのも、ハルの役目だ。
ハルが一番、俺に似合うものを仕上げてくれる。
結局、ハルは俺の価値を進んで貶めない。俺がハルにそうしないから、俺たちはイーブンの関係だ。
「っし、俺にまかせとけ。ちゃんと似合うやつ選んでやるよ」
「うひひ、頼むわ」
もうショップのあたりをつけたのか先陣きって歩き始めるハルに、俺はのんびりとついて足を踏み出した。
「最近の咲は原宿系とかカジュアルっぽかったから、今日はきれいめにしよーぜ」
「おー、いーよ」
大型ショッピングモールにやってきた俺は、目当ての店を見つけて楽しげに服を漁るハルの隣に、呑気に突っ立っている。
今の俺は白のパーカーにGジャンで、スキニージーンズと迷彩柄のキャンパスシューズ。確かに最近はパーカーとかTシャツとかでラフに着てた気がする。
ハルはよくそんなん覚えてんな。
いつものことながら、その記憶力には感心した。ハルは記憶力がいい。
俺は他人の、まあ自分のもだけど、服装なんていちいち覚えていない。昨日着てた服も興味ねーや。
うろうろと俺を引き連れて店内を動き回ったハルは、腕に候補をたくさん引っかけてにっこりと微笑み、それを差し出した。
「よし、着てこい」
「まぁた観客ハルオンリーのファッションショーかよ」
「当たり前だろ? 俺がコーデすんだから、俺好みにしなくてどうすんだ」
「それ選ぶやつの特権っすわ。りょーかい、見とれんなよ?」
冗談めかしてウィンクしながら試着室に入ると、ハルはバーカ、と返し、茶目っ気混じりに笑った。
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