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12(side春木)

 そんなある日のこと。  咲ともっと一緒にいたかった俺は、咲の家へと遊びに行った。  咲の家は各界に根を張る名家であり大金持ちで、広々とした屋敷に住んでいる。  両親は仕事でいつも家を空けていて、子どもにとっては格好の遊び場だったからだ。  二人で鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、遊びの知らない咲になんでも教えて好き勝手に遊び回る。  いつものことだ。  時の流れを刹那にする、幼少の記憶。  その日も、いつもと同じようにかくれんぼをして遊んでいた。  俺が隠れる番で、咲が鬼。  日が落ちるまで隠れきったら、今度の自由研究のテーマは、俺の提案した蝶の標本にするという約束だ。  俺は気合いを入れて隠れる場所を探し、屋敷の一番奥の部屋を隠れ家に決めた。  けれどその部屋は一歩足を踏み入れればわかるほど、異様な有様で。  どう見ても、凡そ普通ではない。  部屋中には、かなりリアルな少年少女の人形が、大量に飾ってあった。  姿かたち様々な人形たちは、みんな部屋の真ん中を作り物の目で見つめている。  咲ほどじゃないが感覚のずれた子どもだった俺は、変な部屋だなあと思いながらもすぐに適応した。  ちょうどいいので、その人形の群れに混じって擬態することにしたのだ。  広いこの屋敷中を探すとなると、子どもの足では結構な時間がかかる。  俺は部屋の扉が開いて咲が俺だけを求める様を今か今かと想像しながら、人形の隙間から様子を伺い、にやにやと笑って待っていた。  この時は楽しかったんだ。  ここに隠れなければ、俺は俺の中にあった毒のような感情に気づくこともなかっただろう。  なのに──隠れてしまった。  それからの出来事は、俺が想像もしなかった光景で。  扉は、思ったよりも早く開いたんだ。  でも現れたのは咲だけじゃなくて、スーツを身に纏った、男が一緒で。 『さぁ、遊ぼう。夕刻にはまた会社へ戻るから、あまりじっくりとはしてやれないけれどね』 『さみしいよ、おとうさん。少しだけれど、たくさんかわいがってね』 『もちろんだよ。かわいいサクヤ』  咲は聞いたこともないような甘えた声を出し、男に腕を絡めて、巧みに男の好みに合わせた態度を取っている。  その咲の言葉とリビングに飾ってあった写真たてを思い出して、俺は男が咲の父親だと気がついた。  父親が部屋の真ん中に咲を転がしてその衣服を丁寧に剥がしていく様は、今でも鮮明に思い出せる。  シャツを剥かれ、徐々にあらわになっていく白磁のような肌。  咲は一切抵抗せずに、されるがままに横たわっていた。  表情も普段とは似ても似つかない。  とびきり愛らしい少年であり続ける。  父親の行動を全てありのままに受け入れる姿が、本物の人形とダブって見えた。  裸に剥いたあと、父親が咲の体を隅々まで舐め回し、穿ち、注ぎ、何度も何度も蹂躙する。  組み敷かれた咲の手足が父親の体の下で揺れ、シーツの上を踊る。  大人の体に覆い被さられる華奢な咲が、押しつぶされているように見え、焦燥したと思う。  肌がぶつかる破裂音。  父親が咲の下肢にかけた粘液がかき混ぜられ、ブチュ、と変な音が聞こえる。

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