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11(side蛇月)※

「タツキのここ、真っ赤に腫れてヒクヒクしてる。ケツ穴バカになってんね。ガバガバだから中身丸見えだし、入り口擦れてグロいわ」  見慣れた自分の部屋の見慣れたバスルーム。  俺はここで、もうお湯なのか淫液なのか汗なのか涙なのかなにもわらないほどぐちゃぐちゃに濡れて、咲のおもちゃになっている。  バスタブの縁に縋りつくように上体を預けてなんとか尻を上げているが、足はガクガクだし息も絶え絶えだ。  けれど、恥ずかしい、無理、なんて口では足掻いているくせに、俺は自ら両足を開いて足の奥を晒していた。 「もう結腸の奥も空っぽで、お腹減ったでしょ? ……そろそろ腕、いっとく?」 「っん……っ」  充血して捲れ上がった縁を指先でクチュ、となぞられ、ぞわぞわと肌が粟立った。  何度もシャワーホースで擦れたせいで、入り口の襞が赤くひりついている。  咲の冷たい指先に火照った粘膜を揉まれて、キモチイイ。 「ぁ、は……っ、ぁ…っ……あっ……」  咲。俺の大好きな、咲。  自分すら見えない濃密な暗闇から手を引いてくれた、俺のヒーロー。カミサマ。  俺は嬉しくってたまンねぇ。  だって、咲がこんなに何度も俺の中を綺麗に洗ってくれたのは、俺の中に咲をたくさん入れてくれるためだから。  咲の腕がまるごと、俺の身体の中に収まるんだぜ。  そう考えるだけで、胸の奥がギュンギュン軋む。  頭がぼうっとして体中が火照り脳が死んで、熱に浮かされた重病患者のようにされるがままのただの肉塊になった。  俺の目の前には、湯の張られていない薄いグレーのバスタブの底しかない。  鼓膜に届くのは、低めで起伏が荒くなのに無感情な咲の声。それからハァハァと自分が吐く犬のようにマヌケな呼吸。  バスルームに反響するクチャクチャとボディローションを温める粘着質な音。 「さ、咲ィ……オレのナカに、できるだけ、深く挿れてェ……? オレを、咲で……いっぱいにして、くれ……っ」 「ン? じゃあ頑張って腸裂いてコロしてやんよ。そんかし、ちゃんと死ねよ?」 「っ……ウンっ、ウンっ」  ぬち、ぬち、と柔い肉を押し拡げてすぼめた指先が入り込んでくるのを感じながら、俺は興奮して真っ赤に茹だった頭を必死にコクコク上下に動かした。  冗談みたいなテンションで本気の言葉を吐くから、咲は怖い。  その咲が俺を殺してくれるってっ!  俺を、だ。  咲のハジメテの殺人は俺だっ!  歓喜に打ち震える。それほど甘い誘惑だった。咲が言うのだから本気で、殺す気で、先は俺の腹の中を心から抉ってくれる。  ちゃんと死ぬぜ、オレ。  そしたら褒めて、咲。  俺を否定しないで。  俺を受け入れて。  たくさんのものを咲と天秤にかけてきた。  重かったのは全て、咲だったんだぜ。  泣き出しそうな仲間を罵倒して、傷つけて、振り払ってわざわざ選んだ咲に、俺はシケたバスルームで無惨にも殺される。  知ってたのに、俺。  太陽が俺を愛してるって知ってたのに。  お前の望むまま、太陽の前でキスをして、興奮したメスのように涎を垂らしながら悦んでいる姿を見せつけた。  太陽の恋よりお前の命令を守り、お前への恋心を優先して、お前とキスができたことに喜悦を覚えて発情した。  そんな、この俺を。  どうか咲だけは否定しないで。  興味なんて全てのものにない。自堕落に人間のフリをしたガラクタ人形。  きっと本人も気づいてない。最低だけど人間らしくできていると思っている咲野。  咲。俺には最初から、空っぽの人形に見えていたんだぜ?  空っぽの人形なのに、身軽なぶんだけ寂しがり屋を抱いて飛ぶんだ、お前は。  ──その人形のオモチャな俺は、今、誰なんだろうなァ。 「ヒッ──……ぁ゛んッ…ふ……ッ」  ギチギチと限界まで皮膚を引っ張りながら一番太い拳の部分がグボッ、と自分の中に収められ、脂汗で冷えきった体に満ちる膨満感で目の奥の線をブチンと千切られた俺は、意識を失った。

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