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03(side翔瑚)

「ね、最近ウキウキだったのに、なんでそんな落ち込んでるのか教えてくださいよ。俺、気になると仕事が手につかないタイプ」  ギクッ、と体が強ばり、俺は不自然に黙ってしまった。  俺の反応が更に梶の好奇心を刺激したのか、まぁまぁと有耶無耶に流されてもう一度ベンチへ座らせられる。  言い訳をしようと時計に目をやったが、まだ戻るにはずいぶん早かった。 「悩みごとなら聞きますぜ、旦那。ふふーん。彼女すか? それとも片想い? 不倫に横恋慕に叶わぬ恋となんでもござれ」 「う、るさいぞ。そもそも、恋の悩みと決まってないだろうがっ」 「いーや、恋愛マスターの梶様にはわかる! リーダーは交際イコール結婚的な古めの硬派系なんで恋の悩みが一番ドツボに入りますね〜。彼女には基本イエスだし喧嘩したらとりあえず謝るし真面目な話し合い嫌いでゴキゲン取りが貢ぐ一択。あれこれ尽くして最終的には尻に敷かれた挙句なんかおもしろくないで捨てられるタイプ」 「な……っ!」  俺はあんまりなとんでもない言い草に、言葉を失ってしまった。  忌憚ないにもほどがある。  それじゃあ俺が別れが怖くて機嫌を取る意気地なしのダメ男みたいじゃないか。  しかめっ面の俺に、梶が「図星でしょ?」と追い打ちをかける。  そんなはずはない。  そんなはずはないが、セフレという爛れた関係を未練たらしく続けている現状を思えば、なにも言えなかった。  セックスしたい時、暇な時に呼び出されるが、俺がシたくても、会いたくても、咲が来てくれると限らないアンフェアな関係。  咲のそれきりの人にならないためには、咲のなにかを理解するか、わからなくて無碍に扱われても耐える忍耐が必要なのだ。  今彼の比較的近くの周りにいる人たちは、少なくとも俺の知る限りどちらかで。  俺は、当然のように後者だった。 「んで、その反応を見るにダメ男進行形なわけですか」 「……、……違う。付き合ってない。……片想いだ」 「おっとそっちか! ははぁ〜ん……まさかマジで先輩みたいな今時見ないイケメンの三高リーマンになびかない女がいるとはねぇ……」  やっぱり俺がいけないんだろうか、と思うと少し人に聞いてもらいたくなってしまった俺は、ポツリとこぼす。  世間的なステータスと言われるものになんか、咲は興味がないので意味がない。  いい大学を出て、いい会社に入り、身だしなみに気を使って身なりを整えたところで、咲の態度は変わらなかった。それはとっくにやったことだ。  そもそも卑屈な俺を今の俺に変えたのは、紛れもない咲だった。  昔と今で扱いが変わらないまま。  じゃあ俺のなにがいけないんだ? と直接咲に聞いたこともある。  女じゃないから?  そう思ったが咲のセフレは男ばかりだ。  別に男が好みなわけではなくて、孕まないことと、容易に恋愛感情を持たれないことと、丈夫なことと、なんというか機能性重視といった選別理由だった。  そんなわけだから、俺には今のところどうしようもない。 「あの人はそんなものに興味ないからな。だからこんなに苦労している。会う予定すら気まぐれだぞ? 欲しいものを聞いたって無理難題を言われるだけだ」 「ぶっ、かぐや姫かよ。火ネズミの衣でも頼まれるんですか?」 「そのほうがずっとわかりやすい。この間は……プレゼントを渡したいと聞くと、なら明日暇だから起きた頃に来てサプライズ調で渡せ、と言われたからいろいろと考えて起きてそうな時間に行ったんだが、もう出かけていて部屋がもぬけの殻だった」 「え? それドタキャンじゃないですか! ヤバイでしょ、その女。別に片想いでも、逆手に取られたって言いなりになる必要ないと思いますけど……」 「いや……あの人はなんというか……中毒性があって、人に好かれやすい。執着されやすいんだ。だから俺以外にも本気の何人か相手がいて……うっかり忘れられたり負けたりしたくなくて、俺が勝手にいろいろやっている」 「あ〜あ。ほらぁ〜俺が言ったとおりじゃないすか〜! 典型的な貢ぐクンっすね。狙った女を振り向かせるなら駆け引きしねぇと! 連絡はマメでいつでも優しく接しながらも時たま距離は空ける! プレゼントは小出しにして相手の反応見つつ調整! そういう女王様タイプはこっちが必死になったらいくらでもつけあがるんですから下心隠して余裕なフリしねぇと〜」 「簡単に言うな、お前は……駆け引きの苦手な俺よりお前のほうがずっとあの人に似てる気がするよ。あの人は素でやるが」 「あはっ確かに! 俺ならリーダータイプの子は逃さないな~。わかりやすいし扱いやすい。あ、仕事は別ですよ?」

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