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06(side翔瑚)
「ブロックして、さようなら……か」
背中を丸めてしょげながらトントンとスマホをいじって、咲のトークをブロック……できなくて、通知をオフにした。
咲から最後に届いていたメッセージは、『ショーゴ』。
どうとでも取れるシンプルな呼びかけのそれを、未読のままアプリを閉じる。
どうして呼ばれたのかを考えて、そう言えば、食事の件は今日決めることになっていたことを思い出した。
トン、と画面を暗く落とす。
今更呼ばれてももう俺は梶と約束してしまって咲のところへは行けっこないし、あるかどうかわからない約束に予定を空けておくほど暇じゃない。
俺の今日の約束は反故にされたのだ。
なのに咲は、新しくなにかを強いる気なのだろうか。
拗ねているのだろう。
反抗的な気分に陥り、閉じたスマホをテーブルに置いてから仕返しに梶の唐揚げを一つ奪って、フッと笑ってやった。
俺は、ちゃんと約束を守るんだ。
なくなった約束の代わりは、もうある
「今日のところは間を取って、通知を切っておいた。届かないものは知らない。なにを言われても気づかなかったと言い張るぞ!」
「おおっ! よっ流石リーダー男前!」
「ふふふよせやいもっと褒めろ」
梶によしよしと髪をくしゃくしゃにしながらなでられて手を払いのけながらも、得意になって酒を飲んだ。
従順なペットの、密かな反抗だ。
こうして少しずつ、俺の中の咲を離していく。そうすればいつか抜け出せるのかもしれない。この泥沼の恋から。
愛しい人と愛し合いたいという、血潮のごとく熱く根強く全身を巡る欲望から。
「笑ってやりましょ! ザマァ見ろっすよ! 男のくせに咲なんてかわいい名前しやがってオツムがお花畑のクズ男め!」
「笑ってやる! そうだ! 咲はかわいいぞ!」
「ちがーうそれじゃ褒めてる!」
「そうか! 咲はかわいいが端正な顔立ちで美しい! そしてかっこいい!」
「それも褒めてる──!」
ぎゃはははは! と梶に笑われて、ムッと唇を尖らせた。
失敬な。咲はかわいいのだ。
美しいしかっこいい。正直顔がすごく好みだ。悔しいくらいにな!
いつもベッドで丸くなって眠っている姿は天使だと思える。
そりゃあ咲は体も顔もしっかりと迷わず男だが、つま先が布団からはみ出ないように小さく縮こまる独特の寝姿は、冬場の猫のように愛らしい。
抱きしめられたいと思う咲にこの時ばかりは抱きしめたいと思うが、その光景を力説したところで梶にはうまく伝わらない。
不貞腐れた梶に「じゃあ写真見せてくださいよ!」と要求されて、咲の写真を持っていない俺は撃沈した。
──それからしばらくあーだこーだと咲の愚痴大会をして、時がたった頃。
「ねーねーリーダーはゲイじゃないんですよね? かわいいから咲ってやつが男でもいいの? 他の男は無理?」
「うーんわからんが、俺は咲と話したり一緒にいるだけで幸せだ。咲に触れられるから、咲とならセックスするのも好きだ。でも他の男とシたいかって聞かれると、考えたこともない。興奮するのは基本女体だな」
咲が男だということもセフレという関係であることもバレている(バラしてしまったとも言う)今、俺は素直な気持ちをゲロゲロと吐いた。
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