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とか言ってショーゴのことさん付けってことは、ショーゴより年下っしょ?
あんま俺とかわんなくね。それとも俺が若作りってことですかね。
「ほほーん……ショーゴは俺と遊べない恋人を作ったのか。オーケェ理解」
特に文句も言わず指先で丸を作って納得すると、ウサトは拍子抜けしたように瞬きをした。なぁに? キレると思った? ごめんね俺生まれてこの方キレたことねぇわ。
わかることはわかるぜ。俺でもさ。
俺のような男が誰かと天秤にかけられて、選ばれるわけはない。この結末は理解できる。
ただちょっとだけ、不正解。
ウサトは訳知り顔で俺をわかったフリをしている。
俺、ショーゴに本気で愛されてると思ったことなんか、一弾指すらねぇんだけど。
持っていない心で慢心なんてできっこない。だから特に驚きも悲哀も諦観もなく、心はブリキ製で穏やかだ。
鈍い感覚でほのかに感じていた冬の寒さすら、俺の中には浸透しなくなった。
そう。代わりが見つかったのか。
俺はもういらない。わかった。了解。知ってる知ってる。はいはいはい。
目玉は欲しかったけど人のものはパクらねぇよ? ドロボーじゃん。ジョーシキテキだねぇ俺ちゃんは。会議出てねぇのに。
んじゃ、帰りますか。
スムーズな俺の思考回路は引っかかることなく自分の現状を受け入れて自分のまま回る。
ウサトに言われた言葉が脳に届いたところで俺の笑顔は変わらないし、だから? という感想しか湧かない。
俺の顔色を見つめて、意外と平気そうだとウサトはつまらなく唇を尖らせた。
「なに、怒りも泣きも強がりも後悔も無様もなんにも晒さねーの? 咲ちゃんの中の翔瑚さんって、そんなもんだったわけ?」
「そんなもんだったみてぇ。あは」
慣れてるかんね。
捨てられるのも、捨てるのも。
「それじゃ、やっぱ正解は俺だった」
怒ってるのか悲しいのか、ごちゃまぜのサイケデリックな表情で俺を睨むウサト。
言っていることはわからない。
俺の反応は不正解らしい。
誰かに捨てられた時、誰かを捨てる時、それでも俺はいつもと変わらないものだ。
それは何年も遊んで抱いて俺の地雷を懲りずに爆発させるような奇特な相手であるショーゴでも、なに一つ変わらない。
もうウサトと話すことがないので、俺はくるりと踵を返し来た道を歩き出す。
「っえ……」
文句を言い足りなかったらしいウサトが後ろで小さく声を漏らすが、ヒラヒラと後ろ手で手を振って振り返らずにエレベーターの前に立つ。
終電はもうない。歩いて帰ろう。
うーん、誰か呼ぶ? のも嫌。こういう時は誰にも会いたくない。猟奇的に犯して血がつくとベッドが汚れる。
ぼーっと立っているうち、エレベーターがやってきた。
乗り込んで振り返ると、ウサトはまだドアから顔を出してこちらを見ていた。
表情はわからない。
ただ一歩足が出ていて、間抜けだなぁと口元を緩める。
用なんかもうねぇだろ。なに見てんのかすら俺にゃあわかんないわ。
「ねーウサト。フラれた俺を慰めてくんね? なんちって。じゃ、また遊ぼーね」
ガガゴンとエレベーターのドアが閉まり、俺の体は箱ごと階下へ降りていった。
ウサトにちゃんと届いたかね?
遠いし無理かも。まー聞こえててもドアが閉まったから答えは知らねーけどさ。
スマホを取り出して、かじかむ指でツンツンと氷のような画面を叩く。
連絡帳。ショーゴ。
メッセージアプリ。ショーゴ。
〝削除しますか?〟
「はい」
バイバイ、ショーゴ。
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