59 / 306
15(side翔瑚)
◇ ◇ ◇
ホワイトソースにチーズとベーコンと卵を合わせて挟んだ、ホットサンド。
焦げ目が濃いめのカリカリしたものが好き。だが焦げ過ぎてしまうと中身しか食べない。
休日に作ってラップで小分けして冷凍保存している、ミネストローネ。
ズッキーニが入っていないと駄目だ。仕上げの黒胡椒がかかっていないとなにも言わないが飲まない。
アボカドとトマトとレタスのサラダ。
カッテージチーズとバジルのレモンドレッシングがないと、トマトだけは食べるが他を残す。柑橘系のドレッシングが好き。
あくまで俺の予想だ。
食後はホットの紅茶とコーヒーを用意できるようにしてある。
気分で飲みたがるものが変わるから、両方用意してその都度淹れる。
たまに緑茶を飲みたがる。
密かに買った、揃いの食器。
入れ物になんて興味がないから気づいていないと思うが、部屋に来てくれた時ぐらいほんの少し幸せな気分を味わいたくて、恥ずかしいことをしていた。
沼から抜け出そうとしているはずなのに、頭の中では無意識に咲のことを考える。
朝食を作りながら、咲はいないのに彼好みの食事を用意していることに気がつき、ため息じみた笑みをもらす。
テーブルに出来上がった朝食を並べていると、ちょうどタイミングよくリビングのドアが開いて眠気眼の梶がやってきた。
昨夜、酔った勢いでベッドを共にしたので、そのまま泊まったのだ。
「リーダーおはようございますー。ってすげ! めちゃうまそう!」
「おはよう。顔は洗ってきたか?」
「もちです。タオル借りました。んあー腹減ったわー!」
「お前はまったく……子どもだな」
はしゃぎながらいそいそと席に着く梶につい吹き出しながら、自分も席に着く。
美味しそう、と言われて少し驚いた。
料理は趣味だから特別なことじゃないし、人に振る舞うこともあまりなく、唯一よく振る舞う咲も、俺の料理ではしゃぐことはなかったから。
食べてくれることが、不快じゃないというせめてものサインだったのだ。
……たまに、褒めてくれるんだがな。
ポテトサラダが好みの加減だったと撫でてくれたことを思い出して、苦笑いをうかべる。呆れたんだ。欠片を拾っては咲と梶を比べている自分に。
「いただきまーす!」
「あぁ。不味くても知らんぞ」
「視界がうまさしか感じねぇすわ!」
梶は目を輝かせて朝食を食べ始めると、うまいうまいと褒めてくれた。
そういう反応は慣れなくてむず痒い。
自分の作ったものに今更なにも思うことがないので、特に感想がない。なんだかんだと褒められると落ち着かなくて、食事をする手の動きがぎこちなくなった。
嬉しいけれど、悲しくなる。
この味付けは、加減は、咲のために覚えたもので、本人はそんなことを気にもしないことを、思い出してしまったからだ。
ともだちにシェアしよう!