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25(side翔瑚)

 嘘じゃない。本当だ。  服を脱いで肌を触れ合わせ、お互いの体を触りあって愛撫しても、俺の自身を反応させることには苦労した。  アルコールを抜いても鈍すぎる。  咲が俺の体で遊ぶことで施したスイッチは、咲にしか入れられなかった。  長い間咲だけが俺のスイッチを入れ続けたために、弊害が生まれたのだ。  なんとか体を高めたあとは咲を受け入れるように内部を解し、俺は梶に奉仕をしたが、いざという場面で胸がつかえて抜きあって終わった、あの夜の真相。 「そして俺は眠ってしまい、あの夜訪ねてきた咲に、後輩が付き合っているなんて嘘を吐いたんだ。その……あいつに悪気はないんだ……試すようなことをして、悪かったと思っている……咲を弄ぶ気はなかった……」  ガタガタと熱もないのに震えて語る俺は話を聴きながら、咲は聞いているのか聞いていないのか、ぼーっと自分の首元に埋まる俺の髪をなでて遊んでいる。  やはり頭が複雑さを欠いているのか幼い仕草が見られる咲に、つい涙が滲んだ。 「バカだなぁ、ショーゴ」  あぁ、咲の声だ。  時折ゴホゴホと咳き込みつつも、赤ちゃんみたい、と言って俺の頭に顎を置き、後頭部をなでる咲。  だってこんなにも愛しさが湧いてくる。  見ていると苦しくてたまらなくなる弱々しい姿なのに、咲の弱さを見れたことが、俺はこんなに嬉しい。 「俺は……俺は、やっぱり咲が好きだ……切った人だなんて言わないでくれ……っ咲が誰のものでもないうちは、俺を咲のものにしておいてくれ……っ俺は、咲に所有されていたいんだ……っ」  ボタ、ボタ、と頬を伝う雫が咲の首元を濡らしていく。  悲鳴だった。  神頼みにも等しい悲鳴だ。  終わった男だなんて、言わないでくれ。  要らないなんて、思わないで。  なんでもするから、できるようになるから。もう嫌になったりしないから。 「咲……俺を、終わらせないで……っ」  汗ばみ上気する肌に涙が零れると心地が悪いのか、なでていた髪をグイグイと引っ張って顔を上げるよう指示された。   貧弱な手つきでは全く痛みはない。  あったとしても抵抗する気力も意味もなくて、どう罵倒されるのか怯えながらも身体を少し離す。  いつものように否定されるのだろう。  俺の愛は信じてもらえず、冗談のセンスがないと酷薄な笑みを浮かべて、濁った目が俺を写すのだろう。  それでもいい。  それに耐えることは、咲に捨てられるよりずっとずっとマシだ。 「ン〜……」  咲は髪を掴んでいた手をそのまま滑らせて、俺の頬をなでる。  親指で濡れた目尻をキツくこすられ、少し痛くて片目を閉じた。  普段と変わりない、ニンマリと口角を上げる猫のような笑み。  掴みどころのない表情だ。  だけど汗で前髪が額に張りついて、頬を真っ赤にしたそれは、やはり普段よりずいぶん人間らしかった。 「だからショーゴは、バカなんだよ」 「……あぁ……」 「捨てられたのは俺だろうに」 「──っ」 「なに言ってんの? ははは」とセリフのような笑い声を交えて言われた言葉に、俺は目を丸く見開く。  咲が捨てられた?  違う。捨てるのは、選択するのはいつも咲のはずだろう?  そんな俺を置き去りに、咲は咳のし過ぎで掠れた声を使って咳き込みながら、当然の証明のようにガサガサと話し始める。

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