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27(side翔瑚)

  ◇ ◇ ◇  咲をベッドに運んだあとはそのまま帰れるわけもなく、咲の看病をした。  スカスカの冷蔵庫からどうにか食べられるものを見繕って食事を作り、食欲がないからいらないと嫌がるのをあの手この手で説得して食べさせてから、薬を飲ませる。  どうして誰かに助けを求めなかったんだ、と尋ねると、風邪を引くのは慣れていると咲は言った。  咲は意外と体が弱いらしく、よく体調を崩すそうだ。  百八十センチと筋肉も綺麗についた体でスタミナもあり、中身は誰より強かな咲の体が弱いなんてビックリする。  それでも大病を患うことはないから変な体質だ、と咲は笑った。笑い事じゃない。  咲は誰かに連絡をすること自体が気まぐれだから周囲は音沙汰がなくとも気づかないし、聞かれてもないならわざわざ言わない人なので、体調を崩しやすいことを知っている人はあまりいないのだろう。  実際、俺も知らなかった。  今日来なければ、これからもずっと知らなかったかもしれない。  自覚すると、本当に自分は咲の中身をなにも知らないで愛していたんだな、と自己嫌悪に苛まれる。  懲りずに何度も告白する果敢な自分の中に、咲を知ろうと踏み込まなかった臆病な自分を見つけた。  咲は俺の中の俺を引き出す天才だ。  だけど知れば知るほど、俺は咲から離れられなくなっていくんだろうな。 「お節介かも……しれないが、溜まっていた家事は片付けておいたぞ」 「ゲホッ、ん、あいがとん。ショーゴちゃんはいい子だねぇ~……ン゛ン」  額に冷却シートを貼ってやると、ベッドで横になる咲は少し唸りながらもされるがままで目を瞑る。  冷たかったシートはすぐにじんわりと熱を帯びた。  さっき熱を測らせた時の体温は、三十八度と少し。低体温気味の咲にしてはかなり高い。  俺は終始眉をたらした相変わらずの犬顔で、苦しげな咲を見つめることしかできないわけだ。へらりといつも通りの笑みを浮かべているが、ずいぶん体は辛いだろう。  表情に出ないのは咲の変な癖。  出さないじゃなくて出ない。だからこそ余計に心配になる。  しかし、俺が長居すると気が散って眠れず悪化するかもしれない。やれることはやった。 「……平気か……咲……」 「ん? 余裕っすよ。俺サマは無敵だかんね。ショーゴと違って」 「お、俺は自慢するほどじゃないが、身体は丈夫なんだぞ」 「クク……丈夫なの? じゃーもちっと手酷く抱いてもいーんだな? 好きだねぇあんたも」 「っ! そ、それは……いや……その……」 「うん」 「……。……ほどほどなら、な」 「あはっ」  体が心配で声をかけたのに逆にからかわれて困った笑いを漏らすと、咲は俺とは対象的に楽しそうな笑みを返した。  もしかして、機嫌がいいのかも。  体調が悪いのに咲はどうやら上機嫌のようだ。俺の予想だが。  なぜか、という理由はわからない。  恐らくないのだと思う。  だが、機嫌のいい咲はなにを言い出すかわかったものではない。  このままだといつも通り俺がいじめられる展開になりそうで、心配ではあったが、そっと立ち上がった。

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