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 初めは本当に酷く、虫ケラちゃんが虫ケラちゃんだと認めるまで、俺と二人でキラキラハッピー同棲生活。  酷いことをするのは慣れていた。  ただ思うとおりにするだけでいいなんて、簡単すぎる。  暴れて怒鳴ってうるさくてめんどうでだるかったが、話を聞いてやってよく体と頭に言い聞かせると、虫ケラちゃんはすぐに泣き出した。  そうなってから、俺は誰かのオモチャになってお金を稼ぎなさい、と提案したのだ。  変態の相手をしたあとはね、アンタのおかげで助かってるよ、とお礼言いながらバスルームで濯いであげて怪我の治療と後処理をした。  なんならたまーに、優しく抱いた。  ついでにいろいろ仕込んでさ。  ほら、売上あがると嬉しいかなって。  ごめんな、痛かっただろ?  いつもありがとう。オマエは本当にイイコだね。うん、そうそう、上手。気持ちいいぜ。よく頑張った。  オマエは特別。俺の特別な子だよ。  キスしよう。ほら、あったかいでしょ。  嘘なんて言わない。  本当に思うことだけだ。  飴と鞭、飴と鞭、飴と鞭。  ついつい、爆笑しちゃいますなぁ。  なんでか俺のこと、いい人だと思っちゃってさ。意味わかんね。  だからさ、大丈夫、これが最後だ、あと少しだけ頑張っておいで、って言ってさ。  アヤヒサにあげちゃった。  ヤのつく人からつまんで遊んで、自分の恋人をボコって働かせて、それを巻き上げてまた使い込むなんてさ、バカだからさ。  なにも知らないで、俺を恋しがりながら海を渡るといい。  なんにも、罪悪感はわかねーなぁ。  懐かれてたのに。こうするつもりだったから。だって気に食わなかったんだもん。  他はどうでもいいけどキョースケの項はダメ。触り心地が悪いのなんのって。  監禁ってのをしてみてぇなーって思ってたからちょうど良かったというのもある。  突然呼び出されてこんなもん渡されてもアヤヒサは動じないし、うまく処理する。むしろうまく使って自分の益にもする。 「何百万か、季王会系列の闇金からつまんでたみてーだぜー。本命の彼女以外に女がいて、ダチとか家族とか都合よく使って金をせびってたらしい」 「ならそれ関連でこじつけて片付けておく。恨みを買ってたならバラしやすいし探されないから楽でいい」  こともなげに冷ややかな声で消すと言い切ったアヤヒサは、アタッシュケースから手を離して、その場にス……と膝をついた。  コンクリ張りの地下ルーム。  言いしれない様々なものが染み込んでドスのきいた色をした汚い床へ、不似合いなほどの美丈夫が、物語でお姫様を誘うように俺の手を握って見上げる。  異国のナイトっぽい。  アヤヒサの指先は、冷たかった。 「咲、私の王様……これにはどんなご褒美が貰えるんだ?」  ぺろりと唇を舐める赤い舌が、艶かしくチロチロと覗いて飴を欲しがる。  あーあ、ほら。  わがままアヤちゃん。  ただじゃすまない。自分の益にするってさ。俺からご褒美をもぎ取ろうって、早速おねだりをしている。  俺はアヤヒサの王様らしい。  働くのが騎士。  褒美を取らせるのが王。  俺はにっこりと笑顔を浮かべて、ダンッと高級革靴を踏み潰す。グリグリとすりつぶすように足先を動かすおまけもつけた。  これが答えだ。  俺の返事を正確に理解したアヤヒサは、普段の無表情からは想像できないトロケるような笑顔で、恍惚と笑う。 「何年後でもいい……いつの日か、私の連れとしてパーティに出席してくれるかね。咲が隣にいてくれるなら、あのつまらないパーティもきっと最上級のエンターテイメントになるさ」 「アハハ。もちろん、真っ黒いスーツとシャツと手袋は用意してくれるんだよな?」  見るからに異物だとわかるように。  甘えるように手の甲へ何度もキスをするアヤヒサの旋毛をながめながら、俺は仕方ないな、とご褒美を保留にした。

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