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10(side今日助)

 あんなにしつこく金を要求してきた恋人からの連絡がパタリと途切れて、もう二ヶ月が経っていた。  その前から連絡の頻度は減ってはいたものの、ついに音信不通になってから二ヶ月経ったということだ。  今まではまぁ、よく来てたんだよ。  こっちの都合はお構いなしに押しかけて俺の部屋をカプセルホテル代わりにしたり、食事に行こうと誘っておいて財布を持ってこなかったり、友人と騒ぐ場所がないから部屋を貸せと追い出されたり、遊びに来たとか言って押し倒されたり、エトセトラエトセトラ。  要するに寝床、メシ、遊び場、性欲処理だ。そりゃあ頻度も高くなる。  昔はこうじゃなかった。  変わらずだらしがなくて甘え上手で放っておけなかったけれど、俺のメシをうまいと笑って食べる男だった。  今はあんまり。  あぁでも、借金取りがうるさいから利子だけでも立て替えてくれって、縋ってきたりはよくするかな。  専門学校に通いながら勉強の合間にする家庭教師の収入なんて、たかが知れてる。  両親はとっくに他界していて、代わりに俺を育ててくれた叔母夫婦には恩義ばかりで金の無心なんてできない。したくない。  学費を稼ぐために働き通して、やっと学校に通い始めても必要経費は尽きなくて、生活に余裕なんてなくて、もしものために貯金は大事で、無駄遣いは我慢して。  そんな俺だから、お前だけなんだよ、とバツが悪そうな笑顔で頼ってくれる恋人に渡す金は、すぐに尽きた。  しょうがないなとなぁなぁで甘やかした俺が悪いのだ。  もうないと言うと、急に手のひら返して暴力的になった恋人に、人を思い切り殴ったことなんてただの一度もない俺は、ろくな抵抗もできなかった。  俺のほうがデカいんだぜ?  体だって丈夫だ。華奢じゃない。  なのにまるでダメだった。  ないなら働いて稼げ、と言われた。  そんな時間はないと言うと、短時間で高収入な仕事を紹介してやると言われた。  それがデリヘル……の、男版。  普通のセックスももちろんできるが、金次第で命を奪ったり傷をつけなければなんでもできる、手広い店だった。  本番アリだと価格が上がる。男だからできることだ。オプションが付くともっと上がる。  男が好きなお前にピッタリの仕事だろ? と笑って言われた。俺はゲイだ。でも誰でもいいわけじゃない。  誰でもいいわけじゃないんだ。  学校へ行って、バイトをして、店の待機室で勉強して待ち指名が入れば行って客を満足させる。そしてまた帰ってきて勉強する。  俺が登録した店は、悪い店ではないんだろう。時間の都合も聞いてくれたし送迎もしてくれた。  性癖が性癖だからニーズはあるが、男女問わず、ハードなSMやスカプレイを受け入れられる人間はそういないと話してくれた。  そうだろうな。俺も嫌だ。嫌だからこそ仕事になった。楽しめるのも才能だと思う。  初めて買われた客は新規の客で、優しそうなおじさんだった。  この人にたった一時間、俺の体と自由を渡すだけでお金をもらえる。  あとで聞いたら、体を売っている好みの男を見つけては買って薬をもり、殺しはしないが皮膚を切り刻む変態だったらしい。  今、俺の身体は切り刻まれた痕はない。  ──咲が、助けてくれたんだ。  本当はそんなつもりなかったと思う。  助けてくれたんじゃない。  でも、たまたまその客と咲は知り合いで、咲は俯いている俺をその客から気ままに買い取ってくれたんだ。  咲は客にキスをして別れ、楽しそうに俺の手を引いて大通りを歩いた。  俺は、買い直されたからにはこの男に抱かれるのかと思った。不思議と目を惹く綺麗なこの生き物なら、と安堵すら感じた。  冷静に考えればそれはだだの比較による錯覚で、おかしな感情だけどな。

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