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07(side蛇月)※微
「──だから早く……オレんとこ来てくれよォ……咲ィ……」
ボスン、と柔らかい音をたてていつもお世話になっている咲のベッドへ体ごと沈む。
そう。
ここは絶賛咲の部屋で、待っててと言われた俺は、フェスに行くためのスポーツカーをスッ飛ばして咲の部屋に直行していた。
なのに咲は連絡も返してこない。
待っててってどのくらいか、聞くの忘れた俺が悪いケド。
まぁ普通は悪くない。相手が咲だから俺が悪い。咲の場合は聞いておかないと何日待たされてもおかしくねぇから。
逆の立場なら咲は気が変わらない限り待ち続ける。
異常に気まぐれで、異常に気が長い。だから責められない。
でも咲が足りない。
むくれてしょげかえりながらじたじたするのももう飽きた。
咲の残り香で寂しさを紛らわしても本物が欲しくなるだけだ。
せっかくオメカシしてきたのに、全部無駄になった気がしてしょぼくれる。
初夏を意識したプリントシャツも、数万のジップパーカーも、マーテンのシューズだっておろしたてなのに。
咲が笑ってくれるかもって舌にピアスを二つも開けたのに。
ヒリヒリして気持ち悪いのに。
見てくれないなんて胸が寒々しくなる。
すぅ、と肺の中いっぱいにベッドから滲む咲の匂いを取り込む。
少しだけ、雨上がりの空の香りに似ている匂いがする。
屍のように布団に突っ伏していると、恋しさと切なさと下心がじわじわどろどろと体内で溢れ出した。
「……ン、……」
もぞ、と身じろいで下着の中に手を入れる。
モデルハウスのように生活感のない咲の部屋はベッドだってシンプルなチョコレート色のダブルベッドだったけど、無個性なそれから残り香を感じて興奮するぐらいには俺のセンサーは優秀だ。
自分の指を咲の指だと暗示をかけて、口内に迎え入れる。
変な味だ。指紋がザラザラする。気持ち悪い。
でも咲の指なら俺にとっては濃厚な蜜のキャンディ同然。
咲との行為を反芻して己を慰めるのは俺お得意の自慰行為で、脳内ハイビジョンに映る咲は、いつもの酷薄な笑みと無邪気な罵倒で俺を責め立てる。
『濡らして絡めて、ふやけるぐらい必死にしゃぶれよ? 手を抜いたら見本を見せちゃうぞ。あはは』
暇つぶしのオモチャを眺める無感情な視線も、俺だけに注がれていた。
もっと見て?
咲、オレ、イイコだから。
イイコに待つから、ゴホウビ欲しい。
「ん……ん、ん……さき……」
ぴちゃ、ぴちゃ、と唾液と指の混ざり合う音を奏でながら、隠すように半勃起した陰茎を握って上下に動かす。
こんなに甘くないケド、いいな。
仰向けの俺に覆いかぶさって、膝でグリグリと痛みを混ぜながら弄ぶんだぜ。
咲の愛撫。羨ましいだろ?
俺に構ってくれる時、容赦なんかしてくんねェンだ。痛いのに、感じる。
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