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08(side蛇月)※

 興奮で抑えきれない声と吐息が、桃色に染まって漏れ出した。  だけど咎める家主はまだ戻らない。  俺の愚行は密やかな欲望として、加速度的にエスカレートしていく。  咲ならいつもどんな責め方をする?  どうやって俺を追い込む?  記憶の中のどれもこれもが、俺を捉えて離さない。  飢えた赤んぼうのように自分の指をしゃぶる俺を見下ろして、咲は「ナメクジみたいで気持ちわりー」とケラケラ笑ったんだ。  気持ち悪いと言われると、心臓が引き絞られて息苦しくなる。  侮蔑されているように感じたあの時。  気まぐれに上顎をなぞられた俺が、甘い息を吐いて舌を止めると、波が引くように表情をなくして「は?」と一瞥する。 「ふぁ……っぉ、おぇんあふぁい……っ」  それがゾクゾクするほど恐ろしくて、されど危険な魅力があって。あぁ、アァ、クソ、たまらない。  俺を一つも、否定しないんだ。  咲は気持ち悪い俺でも、ちっとも気にしていなかった。  気持ち悪い俺に指を舐められても、全然構わなかった。  その程度を気にして指もマトモに舐められないほうが、咲には理解できない。 「んぁ……ふ」  舐めていた指に軽く歯を立て引き抜く。  唾液でふやけた指をなにかに脅迫されるように後ろへ回して、尻を軽く持ち上げた。  手のひらへ滴るほど唾液が絡んだ指で、谷間の奥の窄まりをなぞる。  チュク、と硬くなった性器が下着の中でいやらしい音を立てた。 「く、……ン…ッ……はぁ……」  つぷ、と指が沈み込む。  抱かれ慣れた体は指一本を難なく受け入れ、俺にじんわりと快感を伝えた。  自分で自分を追い立てて、シーツも服も乱して、きっと咲が帰って来たらはしたないやつだって呆れ返って追い出されるかも。  でもその時は、咲がこないから一人でアソンデただけだって縋ればいい。  言いつけは破ってないだろ?  俺は咲には、特別にイイコだ。反逆はしない。咲の言葉通りに開いて、カラダ。  そう、だから、ソレから、うん、ん。 「ァ、ン……ごめんなさい……ごめん……っン、……っく、……」  指を増やしながら襞を掻き分けてクン、と前立腺を押し上げると、口をついて謝罪が飛びでた。  シーツは洗うし、ちゃんと替えるから、咲は許して……くれる、か?  ちょっと自信ない。勝率は五分。  あの時の咲は、舐めていない指では中をイジってくれなかった。まず解してくれない時もある。俺は力の抜き方心得てるけど。  ベッドで抱かれる時は、シャワールームで自分で解しとくんだぜ。  咲と会う日は基本体をピッカピカに磨いて行くし、後ろでのセックスは年季が入っているからすぐ拡がる。  だからあまりちゃんと拡げてくれる指は、咲の指らしくない。  入り口解すくらいでやめて、咲のでこじ開けるくらいがらしくてイイ。ギリギリ裂けないのに苦しくて痛い絶妙なヤツ。  わかっていてもやめられなかった。  指じゃ足りない。  これを抜いても、そのあと俺の中を埋めてくれる熱くて大きいモノがないから。自分で満足しないといけないから。  ホントはちゃんとアレをブチ込んで欲しいけど、俺、指でイクんだよ。  咲のオモチャを勝手に使ったら、それこそ言い訳は許されなくなるンだよ。 「でも我慢できね……っぁ、咲好き、だいすき……っん、すきぃ……っきてはやく、っぁ…っは、欲しい……っナカに欲しい、咲の、ちょーだい……っ」  発情した声で喘ぎながらケツを指でかき混ぜて、クチュクチュと扱く手ごと、腰を揺らして下着越しのモノをシーツに擦りつけた。

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