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04(side翔瑚)
◇ ◇ ◇
「さ、咲ちゃんと付き合ったぁッ!?」
「バカっ、声が大きい!」
予想以上の大声に慌てて梶の口元を押さえつけると、もごもごと口篭りながら少し顔を赤らめてコクコクと頷く梶。
キョロキョロと周囲を見回すがいつもの自販機スペースには特に人影がない。
ホッと胸を撫で下ろし、梶の口元から手を離した。
咲と……つ、付き合って、もう一ヶ月。
初めは毎日毎日おはようと共に疑い、俺の勘違いかもしれない、夢だったのかもしれない、とどうにも信じられない日々だった。
そのたびに本人に尋ねては逐一「付き合ってるだろ」と返事を貰ってようやく現実を実感した俺は、唯一咲とのすったもんだを知る梶にめでたい報告をしたのだ。
浮かれた頭は花が咲いて手遅れだ。
昼休憩中なので他に聞いている人もいない。口止めすれば、梶は言いふらすこともないだろう。ノロケぐらいさせろ。
梶は眉も口元もクシャクシャにし、拗ねた子どものような表情でがっくりとベンチに座り込む。
「ぐぁ〜ッ! 俺のリーダー振り回して好き勝手してるのもムカついてたけどいざちゃんと付き合われてもやっぱりムカつく~ッ!」
「いや、俺はお前のものじゃないからな?」
「俺のリーダーがぁ~ッ!」
「全く聞いてないな、お前……」
自分も梶の隣に座りつつ、呆れて隣の頭に軽くチョップをした。
俺がいつお前のものになった。強いて言うなら俺は咲のものだ。強いて言わなくても咲のものだ。
今までもこれからもそれにしかなれないものだから、俺は恋に身を焦がしていた。
泥沼の片想いでは、俺を咲のものにしてもらっていただけ。
だが、今は……。
「……ニヤけてますよー」
「仕方、ないだろう……」
じっとりとへそ曲がりな視線で指摘されて、頬が赤くなった。
だってその、咲が俺を彼氏と正式に認識してくれた上に好きなところまで言ってくれたんだぞ? ニヤけずにはいられまい。
「ってか彼氏はお初でも彼女はたまにいたんですよねー。けどけっきょく彼女らはフラレてるんでしょ? そこのへん大丈夫なんですか?」
「俺も全てを把握してるわけじゃないが……聞いたことある人たちは、笑われても雑に扱われてもめげずに纏わりついて告白したから、面倒になってどっちでもいいよ? と言った結果らしい。咲が告白に頷いたという話は聞いたことがない」
「まぁじかよ。すげぇ受け身ぃ……んで揺るぎないクソ野郎……」
脳みそを洗い出して過去の記憶を引っ張り出す。
そうなのだ。咲は愛されると理解を超えるほど頑なに突っぱねる。
好きです付き合ってくださいという告白で素直に頷くなんて、想像もつかない。
顎に指を当てて思案するが、やはりどうしても咲は〝愛されること〟と〝愛すること〟が絶対零度に埋められた地雷だ。それをオネダリされると丁寧に潰される。
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