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05(side翔瑚)
そう言うと、梶は「自意識過剰か! 拗ねてんのか! 気取りやがってッ!」と不満げにがなる。
まぁ、一般的に見ると確かにそうかもしれないな。梶は咲を目の敵にしているからよりそう見えるだろう。
しかし咲をよく知る俺からすればその限りじゃない。
咲は心底本気の愛情アレルギーなんだ。
アレルギーというのは便宜上だがな。
割と的を得ていると思う。
クズだ、最低だ、消えてしまえ、と罵倒をされても、決して怒らない。不快にも思わない。
なのに、好きだ、愛してる、なんて言葉には酷い侮辱を受けたかのようにほの暗い瞳で一蹴する。
だから何度突き放しても侮辱され続けると、もう好きにして、と恋人の座を進呈するのだ。
まぁ結局は耐えられずにみんな咲と別れていくのだが……。
「いやアレルギー反応鬼畜すぎ、ってあれ? でもリーダーは告白し続けてたのに好きにしていいとか言われてなくないですか? やっぱ女好きのスケコマヤリチンクズじゃん選り好みしやがって!」
「いやいや、そうじゃない」
「なにが!?」
「咲は、恋愛感情を抱くということは男女間で起きるのが世間一般的な普通……という認識をしていてな。男の告白なんて女性のそれ以上にすべからくジョークだと判断するので、殊更容赦なく吐いて捨てられる」
「あぁ~……そりゃまた歪んだ常識辞典をお持ちで……」
梶は遠くを見つめながら笑うしかないというようにハハ、と乾いた笑みを浮かばせ、口角を引き攣らせる。
俺はそういう経緯と、もう一つの理由を思い出して、また泣きそうになった。
梶とは真逆の意味で、だ。
「……咲が、付き合ってからすごく優しいんだ。連絡したらちゃんと返事が来るし、俺の料理もちゃんと残さなくなった。だから……少しは歴代の恋人たちと違って、本当に好かれているんじゃないかと、思っていたりもする」
言いきったあと、面映ゆくなって黙り込んでしまった。
……セフレだった俺が、自惚れているのかもな。
俺なんて、咲の考えていることがわからない型にはまった男だ。
これは嫌いなんじゃないか、これは好きなのか、とか、今怒っているか、とか、寂しいんじゃないか、とか、全部想像するしかない。当たっているかもわからないが。
きゅっと膝に乗せた拳を握る。
隣に座る梶は気遣いたっぷりだが、どうも腹の立つ表情で俺を見つめていた。
「そ、そんな当たり前のことにそんなに嬉しそうなかわいい顔をするリーダーが不憫すぎて、梶ちゃんは咲ちゃんをぶん殴りたいです……ッ!!」
「それをやったら俺がお前をぶん殴るぞ」
当たり前じゃない。咲から必ず返事が来るなんて本当にすごい進歩なんだぞ! 偏食の咲が食事に飽きたあとも手を動かして食べきってくれるなんて奇跡に近いのに……!
拳を握ってあれこれと熱弁すると、梶はハンカチで目元を押さえながら、俺の背中をさすった。
誠に遺憾である。
遺憾であるが、浮かれた頭に免じてなにも言わないでおいた。
どうやら俺の脳内にはだいぶ花が咲き誇っているらしい。
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