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14(side翔瑚)

 俺が泣き止むまで、咲はずっと俺を抱きしめて時折涙をペロリと舐めた。  美味しくないと思うのだが、言ってもやめないものだから好きにしてもらうことにしたのだ。  ぐすん、ぐすん、と鼻をすすると、咲は俺の顔を肩口に抱き寄せ、猫のように髪に鼻先を擦り寄せる。 「好きだから泣く、か。お前はホントにかわいい犬っころだね。泣きたくて泣いてるわけじゃねぇんだろ? なら俺を好きじゃなくなれば泣かずに済むんだよ」 「いやだ……そんなことできない……」 「……ふぅん。変な生き物」  相変わらず意図の読めない声が、耳元でため息のように呟いた。  俺が微かに体を押すと、咲は簡単に身を離して俺を見つめる。  俺は目をそらさずに咲を知ろうと探りながら咲の左手を握る。 「咲……俺のこと、好きか……?」 「好き。……まー……泣けねぇけどさ」  珍しく歯切れの悪い返事で、俺はキョトンと目を丸くした。  いつも通りに笑ってはいるものの思うところがあったのだろうか。  そりゃあ咲は今泣いていないが、泣けば泣くほど愛情深い人というわけでもド級に愛しているというわけでもないからな……。  やっぱり少しズレている。  恥ずかしながら本性が泣き虫な俺がメソメソしたところで、取り立てるような重大事件じゃない。  咲が好きだから泣いた俺だけれど、泣いたイコール好きだということじゃない。  そもそも人が泣く理由はたくさんある。  なんというか、処理できない感情が溢れた結果が涙だろう? 俺は恋心の温度がたぶん高いから咲に関することでよく泣いてしまうだけだ。  わざわざ説明するほどじゃないくらい普通で、当たり前のことである。  どうしてそんなこと言うんだ?  俺は不思議だったけれど、目の前の咲が、ついさっきまで泣いていた俺よりも寒々しい冷えた空気をまとっているように思えた。  十二月の空気は冷たい。  きゅ、と握った咲の手を引き、身を寄せる。 「咲。……俺はちょっと、疲れたかもしれない」 「そ? じゃー送るわ。とりあ駅前でタクシー捕まえよっか」 「ち、違う」 「違う? 一人で帰んの」 「っじゃなくて、あの、な」  サンリエッタのあるこの通りを奥へ進むと、そこは夜の歓楽街らしい建物がいくつもあるのだ。  下心はおろか送り狼になる気配すらない咲に健全な提案をされた俺は、慌てて咲の体を抱きしめる。 「そのへんにホテルがあるから、その……寝よう。……睡眠ではない、お誘いだ」  昼間の言葉をほじくり返した誘惑。  自分で誘っておいてもう大して寒くないくせに頬が赤く染まった。むしろ熱い。  だってお誘いをかけるということは、今の俺がそういう気分だからで── 「あぁ、セックスしてぇの?」 「っ」  ──そういうことだが、そこをさらっと口に出さないでほしい……!  俺の腰に腕を回しながらダイレクトに翻訳した咲が、俺の垂れた眉にガリッと噛みついた。痛い。でも気持ちのいい範囲の咀嚼だ。膝で股間をなでられてゴクリと喉が鳴る。 「いーよ。ショーゴがしたいことは、なんでもする」 「な、っう……」 「ココになにをぶち込んでほしいのか、考えるのは俺だ。ショーゴは正解か不正解かを教えてくれればいい。俺ができるのはそういう系だけだけど、そんなセックスでいい?」  グニ、とジーンズの上から尻たぶを掴まれ、左右の肉を擦り合わせるように緩慢に力を込められた。  そんなセックス、とはいつものセックスだろう。咲はありとあらゆる手段で試す。だからいつも考えるのは咲で、俺は乱される。  咲がしたいことを叶えたいと俺は思うけれど、快諾できるかどうか、それは種類によると思う。 「は、っ咲」 「それがダメなら、ショーゴが教えて。俺はどうやって愛するお前を抱けばいいのかね? どんなやり方がお前はお望みなのかしら」 「ど、どうって……」  下肢を煽られながら感じそうになる自分を必死に押し込めて、そっと伺う。 「全部聞くから、教えてちょ」  咲はニンマリと笑みを浮かべ、俺の額にキスを落とした。

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