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29(side翔瑚)
「俺が……俺がオチないに賭けたなら、どうして俺の目をキレイだなんて……俺を救いあげることばかり、言ったんだ……?」
疑問を解消しないまま絶望したくなくて、咲を知ろうと声をかける。
すると咲はきょとんとした。
「や、そんなつもりねーケド? 俺は俺の思うとおりにお前に構ってただけですので」
「思う、とおり……?」
「そ。ゲームのために声をかけたけど、その内容は全部特別じゃねぇよ。だっていちいち遊びごときで人格変えてたらキリねーじゃん。気に食わないから全部変えた。抱きたいから抱いた。ショーゴの目がキレイだからキレイだと言った」
「っそれは……つまり……」
「俺、ホントのことしか言わねーよ」
ゲーム中の全ての咲は──嘘偽りなく、自然体の咲のままで俺と向き合ってくれていたということだ。
なんの気なく告げられた真実で、凍りついていた俺の心臓がドク、と鼓動する。
ドク、ドク、ドク、と次第に早鐘を打ち始めるのは、自分が惚れた男が変わらずにありのままだったからだろう。
なら、俺のこの気持ちも、ありのままの変わらない真実なのだ。
だってそうだろう?
咲に変えられた俺はここにいる。
俺が、俺自身が、恋心の証なんだよ。
「っ……咲、咲……告白、冗談じゃない……何度でも言う……俺はお前が、息吹咲野が好きなんだ……家庭教師じゃなくても、変わらずそばにいさせてくれ……」
掴んだ学ランの裾を引いて、俺より小さな未成年の身体を、縋るように抱きしめる。
歳の割に育っていて鍛えていても華奢に感じる子どもの身体。五つも年下の中学生の身体。犯罪的な恋慕。
「あはは、今度は泣くの? なんで?」
「う……っ」
純粋に歪み切った無垢な咲はドンッ、と無軌道に俺を突き飛ばし、俺は零れる涙と共に今日の床へとしりもちをついた。
そんな哀れな俺の腰に跨る咲の手が頬を包み込んで、顔を上げさせる。
「わっかんねーな。フツーさ、ゲームで惨めに弄ばれたらキレるか逃げるか憎むか恨むじゃん? みんなそうしてたよ? 本にはそう書いてあった。なのにショーゴは干からびんのかってくらいべそべそ泣いてんのに、まだ俺といたいの?」
「あぁ……いたい……ずっと……」
「ドマゾだな、マジで。変わらずって、まだ俺とセックスしてぇの?」
「うん……」
「はは、いーよ。でもいつも通りのやり方でしかしてやれねーかんね? ちゃんと慣らしてやんねーしゴム着けねぇし泣いてもやめねー。無責任なセックス。そんでもいいの?」
「うん……いい……」
「ふーん……変なの。んじゃ、ショーゴも俺のセフレってことで。ま、俺のなにかが嫌になったら勝手に抜けてちょーだい。引き止めねーしお好きにどうぞ」
「……うん」
引き止めてほしいと思った。
だけどなにも言えず、頷くことしかできない。始終不思議そうにしている咲が、俺を見ている時間が、終わってほしくない。
トロトロと涙を流して頷く俺に、咲は相変わらずな笑みを浮かべて、まぶたにそっとキスをした。
「……バカだなぁ、ショーゴ」
まぶたに唇を当てたままそう囁かれるとくすぐったい。吐息の熱が心地いい。
家庭教師の先生からセフレになったこの日は、俺の初めて告白した日でもあって。
十五歳の少年に息を殺して抱かれる背徳の泥沼に、沈んだ日でもあった。
抜け出せないとも、知らずに。
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