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33(side翔瑚)
酒を飲むつもりだったから今日は電車で出勤していた俺は、一番早い時間の電車に乗り、会社と咲の家との間にある駅へ到着した。
キラキラと光る駅前を足早に通り過ぎ、咲のマンションへ向かって歩いていく。
その途中にある公園の木も見事にイルミネーションされていて、輝く木々の間を歩くと、咲に会いたい気持ちが掻き立てられた。
俺は結構、典型的な恋人同士のイベントが好きな質らしい。
そんな自分も初めて知った。
やっぱり咲は俺を見つける天才だ。
それは、今も。
「さ、咲っ」
街灯とイルミネーションに照らされた公園の中道を歩く咲の姿を見つけて、俺は子犬のように目を輝かせた。
「あ、ショーゴ」
自分の頬がほころぶのがわかる。
平坦な声だ。咲の声だ。咲がいる。立ち止まったまま、咲が軽く手を振っている。
自然と速度が上がった。
──早くそばに行きたい。咲、咲。会いたかった。心臓が破裂しそうだ。
近づくにつれ咲の姿が大きくなる。
スキニージーンズを履いた足が目の粗い大振りなニットに身を包んだ上半身と比較してかやや華奢に見える咲の姿。
人気のない公園の広場を駆け、はぁはぁと息を切らせて咲の目の前に立つ。
右耳にさがるジッパーを模したスタッドピアスをシャラリと揺らす本物の咲が、ゆるりと笑って小首を傾げた。
「あは、行くって言ったじゃん」
「それはっ、その、……待ちきれなかったんだ」
「せっかちだねぇ」
カァァ、と頬が赤くなる。
飢えた子犬のようで恥ずかしい。咲の子犬にならなりたいけれど、それとこれとは別だ。
「咲、きょ、今日はすまなかった。俺の仕事のせいでイブを台無しにしたのにこんな時間に呼び出して……ただ会いたかっただけだから、迷惑をかけたな」
羞恥心を隠すために話題を変えた。
予定を大幅に狂わせたこと。
電話で何度もちゃんと謝ったけれど、改めて考えると申し訳なくなる。
咲は咲なので怒ることはないだろうが、多少は煩わしく思ったりつまらないと思ったり、寂しがらせただろうと。
「あぁ、別にドタキャンくらいいーよ」
「い、いいのか」
そう思ったのだが、咲は取るに足らない瑣末な問題だとばかりにあっけらかんと受け入れ話を流した。
流された俺はというと、気持ちのままにガックリとしょげる。
咲がこういう人だとわかっていた。
でも両想いの恋人同士なんだからもう少し惜しんでくれるかもと思ったんだが……。
「ぷっ、なにしょげてんの? いーよ。当たり前だろ」
「あぁ、それはありがたいぞ……ただ咲はその、俺との約束がなくなって残念じゃなかったのかと思っただけだ。俺は寂しがってもらいたかったみたいだな」
「え。……あーん……?」
肩を丸くしてうじうじと残念がる俺を見た咲は、キョトンと笑みを消し、理解が及ばないように首をひねった。
ん? なんだ?
なにもおかしなことは言っていないと思うが……俺の言葉が鬱陶しかったのか?
神妙な顔で黙る咲の考えは読めない。
それよいつものことなので「夕飯がまだなら食事に行こうか?」と話題を変えてみるが、それには耳をくれずに口を開く咲。
「マジか。寂しがるのが正解とか、盲点すぎて選択肢になかったわ」
「は……?」
「寂しいってさ、普通めんどくせーじゃん。特に恋人同士の男側……ってか抱く側? の、寂しいはめんどくせーって世論。どんな物語でも哀れなプリンセスには優しくして、プリンスは常にパーフェクトであれって望んでんだろ? 余裕綽々で世界捧げて跪いてプリンセスのためになんでもするプリンスがベストなら、寂しいとか駄々こねねぇと思うんだけど」
「プ、プリンセス? プリンス?」
「そう。俺はプリンスのはずだから、寂しがってほしいは予想外……ま、ショーゴは変わってんな。次からそうすんね」
「いやあの、咲、咲? ちょっと待ってくれ。寂しがるのは、やろうと思ってすることじゃないと思うが」
「え。……ほ~……?」
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