217 / 306

02

「……キョースケ」 「ん?」 「そっか」 「おっ、とっ」  名前を呼ぶと笑って次の言葉を待つ姿を見て、フッと力が抜けた。  糸が切れたようにまた煎餅布団に倒れ込む俺にキョースケは目を丸くして、気を失ったのかと思ったと慌てる。  んなわけねーじゃん。  ただ、キョースケがセンセイだということを思い出しただけ。 「センセ。聞いてちょーだいな」  天井のシミを眺めながら、とつとつと質問を投げかける。答え合わせを試みよう。 「サンタクロースってなんだろう」 「えっ、と……どした?」 「でもイルミネーションってそんなにスペシャルなものなのかね」 「さ、咲……? あの」 「もう正直者の嘘吐きを俺と定義すればいいのかもしんねーよ」 「咲、ちょっとストップ」 「ン」  けれど覆い被さるように身を乗り出したセンセイにより、唇にムニ、と指を当てられ、質問タイムが停止した。 「っ!」 「まらとふぃう」 「ご、ごめんな」  抗議を込めて、困り顔のキョースケの指にベロンと舌を這わせてからパクリと咥え込む。  途端真っ赤に色づくキョースケの頬。  チュ、と吸いついて甘噛みしたまま上目遣いに見つめると、指が引き抜かれて銀の糸が引いた。そ。やっぱキョースケは楽だわ。  視線を指から肢体へ移し、喉をなぞってタレがちな目と視線を合わせる。  それだけでキョースケは顔を近づけてくれたので、骨と筋肉で硬い体を布団に引き込みながら唇にかじりついてやった。 「ん、っ……ふ」  ゴロリと横になって抱き合い、キョースケの唇を味わう。歯列を割って、舌を絡め、唾液をすするキス。  それほど時をかけずに唇を離す。  意味はない。キョースケの体は熱を帯びて体温を高ぶらせていた。 「あぁ、そうそう。説明、な」 「うん……聞きたい」 「サンタクロースって俺は信じてんのよね。見たことないけどたぶんいると思う。いい子じゃねーから、俺ん家にはこないだけ」 「ん、そっか……」 「そんな俺は十分ロマンチストだけど、イルミネーションはただの凶器にしか見えねぇ。うるさいし、痛い。有刺鉄線に似てるじゃん? だからあれはあっちとこっちをわけ隔てる境界線のカタチかもしんない。アレの捉え方でイブの自分の立ち位置がわかるんだろうさ。知らんけど」 「なるほど。そうかもな」 「でもわかんねぇんだ。俺は嘘を吐かないと思うけど俺の言葉は全て嘘らしくて、結局世界的に俺は空前絶後の嘘吐きなんだろ。そんならもう、いいよ。俺は嘘吐きさん」 「あぁ、それは、どうだろ」 「なぁ、俺の言ってる意味、わかる? キョースケ」 「大丈夫。ちゃんと、わかるよ」  わかるよ、と。  そう言われることがあまりなくて。  なんとなく安っぽい服の下に手を滑り込ませて、腕に抱くキョースケの腰と背中を、手のひらで強くなぞる。  微かに「ふっ」と息を詰めるキョースケ。膝で股座を擦りながら首筋に舌を這わせて舐めるとはしたない陰部がゆるりと弾力を増し、頭をもたげ始めた。 「は……咲、もっとわかりたいから……もう少しだけ、ヒントが欲しいな。お前、なにかあったんだろ……?」 「ナニカ?」 「うん。ん、ぁ」  ガリ、と太い鎖骨に噛みつく。  前にあった傷は薄い。 「だって、痩せてる。飯食ってないんだ。顔色悪いし倒れたから、貧血とか栄養不足……胃は痛くないか?」 「わかんない」  俺の歯型で簡単に上書きできるんじゃ、呪いも知れてんな。  キョースケが俺の服の下に手を滑り込ませ、俺の肌を慰めるように愛撫しながら、やけに柔軟な声で変な笑い方をした。  触りたいから触っただけで抱く気はなかったが、キョースケの手は俺の下肢をなぞり、下着をずらしてゆっくりと扱き始める。  ありゃ、なんか欲情したのかね。  ウリ辞めたし男なら誰でもいいくらい飢えてんのかしら。そうか金だな。  まあ、いいよ。  そんな気分になんなくても、求められりゃできる。俺は。  それに、キョースケならなんか、いいよ。

ともだちにシェアしよう!