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 朝日の眩しさにパチ、とまぶたを開くと、隣にハルがいた。 「はよ、咲」 「ハル。おは」  真っ赤な髪があちこち跳ねていたから、挨拶をしながら手を伸ばしていっそうワシャワシャと掻き乱す。  ハルはやめろと嫌がったけれど、俺は面白いからやめない。  反撃に打って出たハルとしばらくベッドの上でじゃれあって、最後には二人揃ってバタリと横になった。  ニンマリと笑いながら目を合わせる。 「俺と初めて会った時、どう思った?」 「ンー……この群れのボスだなって思った」 「群れってクラス? 正解。だって咲がくるまで、俺がなんでも一番だったかんな」 「うふふ。おこなの?」 「別にィ。そーゆー俺がお前のこと、一瞬で〝自分のもんにしてぇな〟って思ったワケ。これ、結構喜んでいいとこな」 「あは。チョー嬉しー」 「棒読みかよ」  不満げなハルに「ホントだよ」と返し、ハルの左手を取って薬指にキスをした。  けれどその手はすぐに取り返され、俺の手はハルの頬にピタリと当てられる。  やわけーほっぺ。かじりたくなる。  なるから、かじろうとした。  が、ハルは「ダメだろ、咲」と空気を読まずに文句を言う。  なぜダメなのかわからない。  俺はハルのほっぺをかじりたいし、そのままその唇を貪って余裕の表情を官能で染めてやりたいと思う。理由は不明。 「アホ。俺、本当はスゲーお前が好きだから。んなことされっとベッドで裸になっちまうぜ?」 「あれ、どして?」  ハルは俺の手を口元にズラして手のひらを舐め、チュク、と吸いついた。  生あたたかい舌の感触。  酷い男だ。意地悪した挙句にそんなことをされると、もっと貪欲なキスをしてやりたくなった。気ままに食い殺したい。 「いけないねぇ。ハルと俺はセックスしないのに。ハルは俺のこと好きじゃねぇもん」  そういう態度が不快だから、俺の手のひらに吸いつくハルから手を取り上げてドライに上体を起こす。  途端、酷い冗談を言う友人は甘いお菓子を取り上げられた幼子のような顔をした。 「ハルだけはそんなこと言わない。俺を嫌いになんないでしょ」 「っ……咲ちゃん、よく聞きな?」 「は、ぁ、い」 「好きは、嫌いじゃねぇの」 「ハルちゃんはジョーシキがねぇなぁ」 「待って、聞けって、俺の話」 「んーん、いい」 「咲、お願い、まだ行くな」 「もう虐めないで」 「お願い」  立ち上がろうとした手首をパシッと力強く掴まれ、ベッドに腰かけたまま首だけで振り返る。  それだけで、俺には理解できた。 「あぁ……これ、夢だな」  ハルが、悲痛な顔で泣いていたからだ。  心臓がキュウ、と収縮する。  頭が痛い。割れそうだ。割れちまえ。  なぜか、掴まれた手を振り払うために動くことすらはばかられるほど、異常な落胆があった。  馬鹿らしい。  俺が泣けないぶんハルは泣かないのだといつの日か笑っていたのに。  だからハルが泣くわけないのに。  ハルと話がかみ合わないのは珍しい。触れただけで熱くなるほどハルが俺を愛しているなんてことも、絶対にない。確実に。  振りほどけない。 「クオリティの低い夢だな」 「お前の夢はいつだってお前の望みだ」 「俺の望みはジ、エンド」 「現実では壊れきったお前の本当に見たい夢なんだよ、咲」 「亀裂もないのに壊れたりしねーよ」 「いいや、出会った時には亀裂があった。家族に、親父に捨てられたあの日……お前はもうガレキでできた人モドキだっただろ」 「いいや? 捨てられたことなんか気にしてない。気が向いたから終わりにしようとしただけ。空を飛ぶのもたまにはいいじゃん」 「でもやめたくせに。──(ハル)が止めたから」 「関係、ねぇよ」  ニンマリといつも通りに笑って見せたけれど、ズキン、ズキン、と、身体中の痛みがひどくなって耳鳴りがした。  ハルの声が水中のようにぼやけて、俺の呼吸はゴポリと水泡を作り部屋の天井へ昇っていく。

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