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 傍目にどう見えているかわからないが、俺は情けなくオロオロと狼狽えるだけ。  そんな役に立たない俺が抱きしめると、キョースケは震える腕でしがみついた。  こいつは、こんな体でもいいのか。  こんな俺でも抱き締め返してくれる。  嗚咽を抑えてどもりながら、わからない俺に自分の気持ちを伝えようと口を開いては、咽び泣く。  静かに、されど確かに泣いているくせに、喉がヒクついてうまく言葉にならないくせに、それでもキョースケは話しかけることをやめない。  俺のために、音を出す。  俺の耳元で、優しくこぼす。 「お金なんかいらないよ……俺、おまえが好きなんだ……」  ──それは、温かで……吐息のような、声だった。 「俺じゃなくてもいいなんて、いい子ぶっただけの大嘘だ……本当は……俺を愛してほしかったんだよ……」 「……うん」 「咲……好きだ……愛してる……お前の幸せが俺なら、俺にお前を、守らせて……? もうどこにも、行かねーで……」 「うん、行かねぇよ。俺の幸せはお前だよ。ずっとお前に、守られてるよ」 「っ……それじゃあ、ちゃんと聞かせてくれるか……? 咲が俺のこと、どう思って、どうしてほしいのか……お前の言葉で……」  堪えきれないように心を吐き出すキョースケの体は熱くて、俺の身も血も全てが溶けていきそうなほどの温度があった。  この体温は、優しさでできている。  誰よりも温かいキョースケ。  温かいがために搾取され、温かいがために傷を隠し、温かいがためにエサの欲しがり方を知らずに笑う愛したがりの小鳥ちゃん。  そんなキョースケが欲しがった。  俺なんぞの言葉とやらを。  信じられない優しさだ。  優しいからコイツ、俺のことを許して、受け入れてくれんの? 本当に?  普通じゃないって、酷いって、わかってて、それでも、俺のために泣くようなキョースケを、どう思っているのか。  そんなものが、欲しかったんだなぁ。 「ん……キョースケ」 「ここにいるよ、咲……」 「キョースケ。俺、お前に恋してんだ」 「あ……はは」  キョースケの声を真似た俺は、優しい身体をしっかりと抱きしめて、ピアスのついた右耳にチュ、とキスをした。 「一人になって気づいたんだ、キョースケ。俺はキョースケが、好きなんだよ」 「そっか……」 「キョースケに包まれていると溶けて消えてしまいそうだったから、わけもわからず、逃げたんだ。本当はずっと、お前と眠っていようかって思ってしまったから」 「うん……じゃあ、いいよ」 「でもさ、俺はお前だけじゃ満足できねぇんだ。お前がいないと、お前じゃねぇとダメになるのに、お前だけじゃねぇんだ」 「いい、それで」 「ホントだよ? 信じて、キョースケ。そんなの信じらんないって思うのが、フツーなんだよな。でも俺、嘘じゃねー。ホントのホントにキョースケが好き」 「いいよ。もう、わかった」 「確かに五人を愛したけど、どれ一つとして同じじゃなくて、それぞれナンバーワンで、すべからく唯一無二で、それら全てが俺の命綱だ。今日、もし他をみんな手に入れて、お前だけが俺を捨てて忘れても、俺はお前をずっとずぅっと、忘れない。忘れられない。恋って、そういうものでしょ? ねぇ、嘘じゃないんだ」 「うん。信じる。いいよ」 「一番安心して気兼ねないのはハルで、一番ワガママ言って頼っちゃうのはアヤヒサだけど……俺が一番優しくしたくてイイコでいたいのは、お前だよ。キョースケ。特別なんだ」 「嬉しいぜ。だからいいんだ」 「愛してるよ、愛してるんだよ。なぁ、オマエの愛し方を、教えてよ。次はじょうずに、死ぬまで寄り添うから。いいでしょ」 「いいよ。俺も、咲を愛してる」  信じられない、普通じゃない。  だから理解できない。  初めにそう言っていたことを思い出して、俺はキョースケがそうしてくれたように、キョースケが理解できるまで根気強く伝える。  俺が言葉を重ねるたび、キョースケの相槌は落ち着き、声は穏やかに響いた。  そして最後の時には許しを与えて、キョースケはようやく嬉しげに頬を緩ませ、俺の頭をワシャワシャとかき混ぜた。  見つめあって、視線が絡む。  少しづつ顔を近づけられて、少し荒れた武骨な褐色の指が、白い髪を弄ぶ。  そうして触れそうで触れない唇の距離で、俺が愛した優しい男は、朝日のようにクシャリと笑った。 「俺にちゃんと守らせてくれるのなら、二度と知らない間に消えたりしないなら、俺は無償で咲を愛しているんだって絶対に忘れずにいてくれるなら」 「俺は咲の全部が、いいよ」  ──心の欠片の三番目。  生多今日助に、口づける。  そしてこれがかくれんぼだと気がついた俺は、残りの二つを求めて、歩き出した。

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