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気が向いて、ノートの端に他の四人を描いた。なかなか似ている。特徴がありすぎるものだから描きやすい。
口元にホクロをつける。
表情は歯を見せて、狂暴な笑顔。
(春木さん。名前で呼んでいいって言われたけど、俺以外みんな苗字で呼んでるから、さんが外せないな……)
その隣には髪を上げたメガネの男。口元は真一文字。笑ったところを見たことがない。
(社長。どう呼んでも気にしないからみんな好きに呼んでるぜ。俺はこれが呼びやすい。考えてることが一番わからないけどさ)
更に隣には、あちこち跳ねた黒い髪とメッシュ。ピアスだらけだ。したり顔。
(蛇月くん。SPACEのヴォーカルって、初めて知って驚いたな……! 俺でも知ってる歌がいくつもあるんだよ。だからかな、あんまり怖くない)
そしてそのそばに、眉を下げて目尻に涙を浮かばせた顔を描く。
理久の次に年上の大人だが、彼は本当にすぐに泣く。咲野の行動由来に限定されるが。
(翔瑚。だから年下だと思ったのに、会ってみたら年上で、しっかりした男の人だったぞ~……。くんはいらないって笑った時はカッコイイって思ったけど、その後咲に『ちゃんじゃねーの?』って言われてへんにょりしてた)
思い出して、翔瑚に同情した。
そうして始まる、手持無沙汰な最年少による同じ穴のムジナ考察。
「んー……春木さんが金曜日だと……社長が否定して、蛇月くんがたぶん喧嘩を売るんだよなー……で、社長が金曜日だと春木さんがとんでもない長文で罵倒して、翔瑚が羨ましそうにする。翔瑚はなんでか、社長が羨ましいみたいだもんな。でも……蛇月くんが金曜日だと春木さんが締め落とすだろうし、翔瑚が金曜日だと、やっぱり春木さんが翔瑚を泣かせるだろうから……な、なるほど……春木さんと仲良くできるのが俺しかいないのか……!」
今更ながら冷静に考えてみると、自分が金曜日を担当するのは、本当に平和的な解決方法だったらしい。
決めた時は巻き起こる喧嘩と涙目の翔瑚をフォローすることに尽力していたので、いつの間にやら決まっていたのだ。
こうも理論的に決まったことだったとは。
本人の言うとおり、春木は心の狭さがピカイチ。咲野一人分しか容量がない。
手懐けられる可能性のあった翔瑚ですら、なにやら〝チャーハンの恨み〟とやらを買っていて、なにかとひがまれている。
ふむ、翔瑚はなにかと災難がすぎるようだ。自分もあまり人のことは言えないが。
そうしてノートに面白おかしいメンツのラクガキをしていた時。
「チャーハン……なにがダメなんだろう? 今度春木さんに聞いてみるか……」
「──……『キョースケの作ったものなら、なんでもスキ』?」
「っ!?」
油断しきっていた背中に──ムギュ、と予期せぬ抱擁が与えられた。
驚きのあまり、肩を竦めて縮こまる。
しかもそのセリフは恥ずかしながら妄想上の産物で、本人に読み上げられる予定なんて、これっぽっちもなかったのだ。
「オベンキョーの邪魔を我慢して、イイコでお仕事を終わらせた俺に、こんなこと言わせてーの? キョースケ」
硬直した体を包み込むように抱きしめる腕の持ち主──咲野は、今日助の耳元で興味深そうに息を吐く。
ボッ、とその耳元まで熱が集まり、急に夏の暑気に当てられた気分になった。
だって、そんな責め方だと、自分がいると仕事中でも構いたくなる、というような意味に取れるじゃないか。
毎度毎度、わざと無視しているのかと思っていたのに。……表情に出なさすぎる。そして本気に見えなさすぎる。
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