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「~~っ……べ、勉強が切りよく終わったから、まぁ、ちょっと遊んでただけだぜ」
「ぶっ、他のもいる。似てんなー。俺以外はカーワイー」
「あ、あはは……」
(くぅ……っ咲のが一番気合い入れて描いたんだけども……!)
はむはむと耳たぶを食みながらノートを長い指が滑ると、心臓がうるさくてかなわない。笑って誤魔化す。
というか、人前で友達と言うにはあんまり近すぎる距離感を披露するのは、控えてほしいのが本音だ。
たった二ヶ月でもこのカフェの店員として認知されている咲野に濃厚接触をはかられれば、周囲からの視線は避けられない。
今日助の羞恥センサーはそれらを敏感に察知する。──のに、振り解けないのだから、自分は呆れるくらい咲野が好きだった。
チュ、チュ、と耳の裏にキスをするに至る咲野には、少しも伝わっていないのだろう。
「キョースケの作ったやつならなんでもスキ、ってわけじゃねぇケドにゃ」
「ん、わかってる、は、くすぐったい……」
「嘘でもスキって言ったほうが嬉しい?」
「うっ、別に、嘘はいらないぜ、ホントだけがイイな」
「そ。ホントは、キョースケの作ったやつならなんでも食える、で」
「ぅひっ……!」
「おままごとセットでも、喉詰まらない大きさなら、食うし」
ビクッ、と身が跳ねた。教科書やノート、筆記用具を片付ける手がしばしば止まる。
今日助の恋心が伝わっていなくても、咲野の愛情表現は〝例え嫌いなものでも無機物でも、躊躇なく食べる〟。
要するにそのくらい、今日助が作ったものに価値を感じているらしい。
独特の言い方をする咲野の言葉の意味は、彼の言葉が甘さを含んでから、ある程度なら理解できるようになった。なってしまうと、たまらない。
(普通に言われるより自分で気づいたほうが恥ずかしいし、嬉しいとか……ホント、ズルい人だなぁ……)
バックパックに全てを詰め込みながら、ままごとセットは食べなくていいと笑ってごまかす。
すると咲野は今日助のバックパックを奪いつつ「ガチめに考えたのに」と、首を傾げて入り口に向かって歩き出した。
……くそう。そんなこと、本気で考えないでくれ。とめどなく、好きになる。
そして教科書やノートパソコンが入った重いカバンを、さり気なく持たないでほしい。好きが止まらない。
──そうして、額に手を当てる今日助と相変わらずの咲野が、二人並んで店から出た時だ。
カランッ、とドアベルを鳴らしてドアを開くと、肩を丸めて駅へと歩いて行く見知った男が一人、二人の視界に入った。
(ん? あれは──翔瑚だ)
「今日助、手ェ貸して。歩くから」
「ぷっ、はは、わかった」
今日助がその男、翔瑚を認識した時には、咲野はすでに今日助の手を取って歩き始めていて、それに逆らわずについて行く。
思わず笑った。
翔瑚を見つけて構いに行かない選択肢はない咲野なのに、今日助を放置して翔瑚のもとへ行くことはしない。
もし咲野が今日助に待ってて、と声をかけて歩いて行ったなら、今日助は胸に少しの寂寞を抱いて、今とは違う色が混ざった笑顔で送り出していただろう。
けれど翔瑚を見つけてもなかったことにしたならば、万が一翔瑚が後でそれを知った時、きっと自分と同じ寂寞を抱いて笑ったはずだ。
本当に今日助と翔瑚で格差なく愛している咲野だから、自然とそうしてくれる。
幸せだなぁ、と思いながら、シュンと気落ちした様子の翔瑚を背後から抱き寄せる咲野の横で、ふふふと笑った。
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