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「今、自分だったらって思って遠慮したんだろ?」
「うっ……」
「俺だって、自分だったら凄く寂しいから、翔瑚を誘うんだぜ」
「コラ……そんなに優しくしたら、今日助が割りを食ってばっかりじゃないか」
「でも、曜日を決めるのは咲が俺たちを喧嘩させたくないからだろ? ほら。俺と翔瑚は性格的に喧嘩には向いてないみたいだから……全然問題ない」
「あっ……!」
「それに咲なら、どっちかに付きっ切りってこともないしさ。言っとくけど、俺だって同じ恋人って立場の相手にしかこんな提案しないぜ?」
「きょ、今日助~……っお前、人生二週目なのか……っ?」
コソコソと小声で会話しながら、翔瑚は感動して今日助にあらぬレッテルを張ってしまう。
そうじゃないと説明がつかないのだ。彼の前世は釈迦に違いない。
今日助は驚いて首を横に振るが、信じる気はない。
翔瑚には咲野を独り占めしたい欲望は当然あるが、それでも同じ立場である恋人たちならば共有を許せるので、今日助の言い分もわかった。
同じ辛苦を味わった者たちだ。
そしてあんなことがあっても、咲野から離れなかった。
欠片も嫉妬しないわけじゃないけれど、恋とは違う不思議な親愛を感じている。
「それじゃあ、ええと……嫌になったら追い出してもらって構わないので、お邪魔する……」
「あはは、おうさ。翔瑚は料理ができるから、助かるよ」
翔瑚は今日助と向き合い、へにょりと眉を垂れさせた。
そんな翔瑚の知らない話だが、実のところ、今日助は犬が好きなのだ。
大人びた翔瑚が咲に関連することで不意に見せる大型犬オーラが、今日助の寛大さへ大いに拍車をかけているなんて、翔瑚が知ることは今後もないだろう。
──そうして二人がホコホコと小ぶりの花を周囲に飛ばしている間、おとなしくしていた男は、薄ら笑いを浮かべて二人を眺める。
(……ンー……)
有り余る気配を消してナイショ話を盗み聞きしていた、咲野だ。
本来ならこういう場合、咲野は気の赴くまま二人をいじめるか、一人で気ままにどこかへ行くか、電信柱のように立ち尽くすか、である。
しかし、今ばかりはそうもいかない。
ナイショ話を盗み聞きして、状況の把握に努めつつ、でしゃばることなくなるべく存在感を薄めるだけだ。
今日助も翔瑚も、咲野の愛する恋人。
二人だけで話をされると、のけ者になっているようで多少寂しい。
けれどそれを隠そうとしなくとも一切顔に出ないのが咲野なので、ただひたすら、二人のどちらかが咲野の存在を思い出してくれるまで、微動だにせずに待つのみである。
(……二倍食えっかな……全部混ぜて飲んだら、普通は嫌……? わかんねー……あ、てかプラスチックのオモチャって、二つ食ったら喉詰まんのかな?)
頭の中では、翔瑚が夕飯に参加することを、微かな心の機微で喜んでいた。
ままごとセットが夕飯の場合の予測から抜け出せないのは、ご愛嬌。
翔瑚が作ったとしても、ちゃんと食べられる程度の大きさなら食べるのだ。
──そうして非常識へとズレたことを真剣に考えつつ、じっと二人を見ている咲野に二人が気がついたのは、ほんの数秒後のことであった。
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