292 / 306

25

「今、自分だったらって思って遠慮したんだろ?」 「うっ……」 「俺だって、自分だったら凄く寂しいから、翔瑚を誘うんだぜ」 「コラ……そんなに優しくしたら、今日助が割りを食ってばっかりじゃないか」 「でも、曜日を決めるのは咲が俺たちを喧嘩させたくないからだろ? ほら。俺と翔瑚は性格的に喧嘩には向いてないみたいだから……全然問題ない」 「あっ……!」 「それに咲なら、どっちかに付きっ切りってこともないしさ。言っとくけど、俺だって同じ恋人って立場の相手にしかこんな提案しないぜ?」 「きょ、今日助~……っお前、人生二週目なのか……っ?」  コソコソと小声で会話しながら、翔瑚は感動して今日助にあらぬレッテルを張ってしまう。  そうじゃないと説明がつかないのだ。彼の前世は釈迦に違いない。  今日助は驚いて首を横に振るが、信じる気はない。  翔瑚には咲野を独り占めしたい欲望は当然あるが、それでも同じ立場である恋人たちならば共有を許せるので、今日助の言い分もわかった。  同じ辛苦を味わった者たちだ。  そしてあんなことがあっても、咲野から離れなかった。  欠片も嫉妬しないわけじゃないけれど、恋とは違う不思議な親愛を感じている。 「それじゃあ、ええと……嫌になったら追い出してもらって構わないので、お邪魔する……」 「あはは、おうさ。翔瑚は料理ができるから、助かるよ」  翔瑚は今日助と向き合い、へにょりと眉を垂れさせた。  そんな翔瑚の知らない話だが、実のところ、今日助は犬が好きなのだ。  大人びた翔瑚が咲に関連することで不意に見せる大型犬オーラが、今日助の寛大さへ大いに拍車をかけているなんて、翔瑚が知ることは今後もないだろう。  ──そうして二人がホコホコと小ぶりの花を周囲に飛ばしている間、おとなしくしていた男は、薄ら笑いを浮かべて二人を眺める。 (……ンー……)  有り余る気配を消してナイショ話を盗み聞きしていた、咲野だ。  本来ならこういう場合、咲野は気の赴くまま二人をいじめるか、一人で気ままにどこかへ行くか、電信柱のように立ち尽くすか、である。  しかし、今ばかりはそうもいかない。  ナイショ話を盗み聞きして、状況の把握に努めつつ、でしゃばることなくなるべく存在感を薄めるだけだ。  今日助も翔瑚も、咲野の愛する恋人。  二人だけで話をされると、のけ者になっているようで多少寂しい。  けれどそれを隠そうとしなくとも一切顔に出ないのが咲野なので、ただひたすら、二人のどちらかが咲野の存在を思い出してくれるまで、微動だにせずに待つのみである。 (……二倍食えっかな……全部混ぜて飲んだら、普通は嫌……? わかんねー……あ、てかプラスチックのオモチャって、二つ食ったら喉詰まんのかな?)  頭の中では、翔瑚が夕飯に参加することを、微かな心の機微で喜んでいた。  ままごとセットが夕飯の場合の予測から抜け出せないのは、ご愛嬌。  翔瑚が作ったとしても、ちゃんと食べられる程度の大きさなら食べるのだ。  ──そうして非常識へとズレたことを真剣に考えつつ、じっと二人を見ている咲野に二人が気がついたのは、ほんの数秒後のことであった。

ともだちにシェアしよう!