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金曜日を三人で楽しむことに決まったあとは、三人で買い物をしてから咲野の家へ集まることになった。
夕飯のメニューを決める時、咲野は本当になんでも「うん、イイネ」としか言わなかったので、翔瑚と二人で献立を立てる。
そういうことは翔瑚のほうがうまい。栄養面も考えた献立を、簡単に立ててしまった。
夏の暑さを振り切るために、冷しゃぶサラダ。鶏肉のピカタ。食後のアイスは、一人一つまでとする。
酢の物に入れるタコを今日助はいつもケチるのだが、翔瑚が「ケチった時はカニカマを入れると美味いぞ」と言って笑ったので、やはり気が合うと笑い返した。
貧乏であることを笑うことも憐れむこともせず、ワンポイントアドバイス。ふむ。翔瑚は会社でイイ先輩なのだろう。
食材を集めている間、食に頓着のない咲野は、生け簀の魚と睨めっこをしていた。
一応、彼なりに買い物を楽しんでいるらしい。変なところが子どもな咲野である。ちょっとかわいいと思ったのはご愛嬌。
好き嫌いはないが好みはあるかもしれないと思い、酢の物に入れるものを聞くと、咲野は「ごはん」と答えた。
今日助と翔瑚は顔を見合わせて、同じような顔で苦笑いを返したショッピングタイムだ。
買い物を終えて部屋に到着すると、自由な咲野はなんの脈絡もなく、さっさと風呂を洗って湯を溜め始めてしまうので驚いた。
湯を溜めている間に、乾燥機能がついた洗濯機を動かしもする。
最後には溜めたくせにシャワーだけを浴びて上がると、下着一枚でウロウロ歩き、買い物袋を解体し始めた。
この間 、約十分。
濡れたままの咲野。足跡ができる廊下。
風呂上がりだがちゃっかりと今日助があげたピアスと理久の時計は着けているあたりに、胸キュンする──じゃなくて。
「……っいけないっ!」
「廊下が濡れる!」
超展開に呆然とした今日助と翔瑚は、ハッ! と声を上げ、各々が弾かれたように動いた。
今日助はドライヤーとバスタオル、翔瑚は廊下を拭きつつ部屋着を抱えて、気まぐれニャンコな咲野に飛びつく。
「な、なんで風呂に湯を溜めたのにシャワーなんだ……!? というか、なぜなんの予兆もなくシャワーなんだ……!?」
「ン? 風呂の湯は、オマエらは湯船入るかなって。俺は入んないけど。シャワーは浴びようって思ったから浴びた」
「お、おお……湯船、うん。ありがとうな」
手早く咲野に服を着せる翔瑚は、咲野のマイペースの中に埋もれた気遣いを発掘し、ポッと頬を染めた。
バスタオルで髪と体を拭きつつ、見えない尻尾をパッタパッタと振っている。
賢く警戒心の強い番犬タイプの理久がワイマラナーであれば、翔瑚は人懐こいが忍耐強くストレスを溜めやすいグレーハウンドといったところか。
「うん、うん。それはいいんだけれど、服は着ないと風邪を引くし、せめて前もって言ってくれると嬉しいなー……!」
どちらにせよ咲野に丸め込まれるわけだが、ブオオオンッ、とドライヤーを稼働させて咲野の髪を乾かす今日助は、物申す。
咲野は首を傾げるが、言わねばだ。
普段はきちんと水気をとってから出るのに、今日は出てきた意味がわからない。
「ありゃ、わかんねー。俺がシャワー行こうが行くまいが、オマエらは好きにしたらいいじゃん。俺が風邪引いても、オマエらは引かねーじゃん? そこ連動してねーもん。でも、翔瑚と今日助が言ってほしいなら、これからは言うかにゃ。──じゃ。俺は今から、噛みつきます」
「「ン゛……ッ!?」」
そう言って笑う咲野は、同時に今日助と翔瑚を抱き寄せ、順に頬を強く噛んだ。
──残念ながら、前もって言われたところで理解できないこともある。
「うふふ。俺ちゃんは、オマエらとあんまり離れてんのやだから、早めに出てきたワケですが……そうすっと二人揃って引っ付いてくれんなら、次からゆっくり入って、全裸で出てくることにすんよ」
歯型のついた真っ赤な頬をひきつらせて、木曜日の男と金曜日の男は、硬直した。
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