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第2話
「敏志!」
「何」
「最近、毎週遊びに行ってるみたいだけど、誰と遊んでるの?」
今日は母親が、しつこい。
「タカシ君のお母さんも、マサル君のお母さんも、“敏志君来てませんよ“って言ってたわよ」
聞きまわってるんだ。メンドクサイ。
「中学で新しく出来た友達だよ」
僕は、中学生になっていた。
“反抗期”と言う名で仕切りたがる大人は、この程度の言葉で引き下がる。
「そう…、なら、良いんだけど」
ほらね。
「じゃ、行ってきます」
走り出すほど会いたいのは、翔さん。
初めは、子供ながらに“慰めよう”としていたのかもしれない。
“兄ちゃんの代わり”でも傍に居れば、翔さんが元気を取り戻すんじゃないか、なんて、考えて居たのかもしれない。
でも今は違う。
自分でもハッキリ分かる。
自分の気持ちを自覚して分かった、母親の翔さんへの態度。
あれは“憎悪”と“嫌悪”
兄ちゃんが、同性愛者だった事のショックも相まって、全部翔さんのせいにして、ソイツを翔さんにぶちまけた。
『お前のせいだ』と
そんな母親を僕は軽蔑し、距離を置くようになった。
同性愛を否定すんなら、僕の敵、って、
事でしょ?
僕は、俺は、翔さんが好きだ。
『兄ちゃんの代わり』を、今日こそ卒業するんだ。
だってもうすぐ三回忌。
三年待った。
もう。翔さんを開放してあげてよ、優一兄ちゃん
* * * *
「翔さーん」
玄関のインターホンを連打でしつこく鳴らす。
『ピンポン』と鳴る余裕も無くて、
「ピピピピピピーンポーン」
と鳴っている。
「うぅるっっっっせ」
開いたドアの隙間をこじ開けて、ボディーアタック。
抱きついて抱き締めて、反動で倒れても、翔さんの後頭部は死守した。
「逢いたかったぁ~」
俺の露骨な愛情表現は、翔さんには“冗談”としてしか認識されない。
それでも、拒否も抵抗もせず、されるがまま、で、居てくれるのは、きっと同情。
翔さんの中で、俺はまだ“子供”なんだ。
「大袈裟にすんな。
たった一週間だろが」
如何にも不満げに歪ませた表情を見せながら、俺ごと腹筋で上半身を起こす。
「翔さん、マッチョだね。細マッチョ」
「はいはい」
俺の言葉をスルーして、
「良いから、ドア、閉めろ」
そのくせ俺を引っ張り起こしてくれてから、顎で促す。
「はいはい」
翔さんの真似をしながら、仕方なく身体を離して振り向き、ドアを閉めて、鍵を掛ける。
「…なんか、やらしいな」
独り言を呟いてニヤついていると
「?なんだ?」
台所から声が掛かる。
いつも通り飲み物を用意してくれて、部屋へ向かう所みたいだった。
「なんでも」
『ない』は省略して、自分もウキウキと翔さんの部屋へ入室する。
相変わらず殺風景な中、コルクボードは、昔のままだ。
「いただきます」
テーブルの前の定位置に胡座をかいて、麦茶を口に運ぶと、写真の中の兄ちゃんに、心の中で話し掛ける。
『良いよね?
翔さん、俺が貰うよ』
返事なんか出来ない相手に、自分に都合良く
『無言=肯定』とこじつける。
「もう‥‥、三年、に、なるんだな」
じっと写真を見ていたせいか、翔さんから話題が登る。
「うん。早いね、アッという間。
俺もう、中学生だよ」
はは。って笑ったけど、翔さんは無表情だった。
「にしてもお前等、兄弟なのに似てねーのな。
優一が13歳ン頃は、もっと色白の王子様系美男子だったぞ?」
「悪かったね、色黒平民顔で!」
口唇を尖らせて見せたけれど、内心では喜んでいた。
あんまり似ちゃったら、本当に“身代わり”みたいで、きっと寂しさで死んでしまう。
自然にそう思ってハッとする。
優一兄ちゃんだったら、きっと、それでも、
『寂しさ』よりも、『生きる事』を、選んでいたに、
違いなかった。
「翔さんは、さ」
そんな、すでに“過去の人“になってしまった兄ちゃんに、勇気を、貰った
気がした。
『かける、』
あの日、最期まで聞けなかった言葉の続きが、
『を、頼む』
だったのかもしれない、と。
「まだ、
兄ちゃんを、
‥‥忘れられない?」
顔は、怖くて見れなかった。
ハッキリ断られたら、明日からどう接したら良いのか。
そんな事すら、考えずに、言葉が先に
暴走した。
『敏志』
兄ちゃんの声が、聞こえる。
これは、“止めろ“って言う、忠告なの?
「忘れられる訳、無ぇだろ」
力強い、声。
「‥‥だょ、ね」
全身の力が、抜けそうだ。
この2人の間には、きっと誰も、入り込める隙間すら、無いんだろうな。
ヤバイ、泣けて来た。
手、震えて、カッコ悪‥‥
「だけど」
俯いていた背中側から、俺を囲むように両腕が視界に映り込む。
そしてそのまま、俺を抱き締めてくれた。
「それで、良いんじゃねぇの?」
「ぇ?」
振り向こうとしたけど、ガッチリとホールドされて、身動きが取れない。
翔さんも、今は顔、見られたくないのかなぁ?
「優一はさ、俺達の“一番大切な人”で、そのままで、居させてやろうよ。
だってさ。どうしたって、優一を、想わない日は無いじゃん。
もぅ、心にさ、居着いちゃってんだもん。」
どんどん鼻声になって行く翔さん。
つられて俺まで、涙が滲んだ。
「それじゃ駄目かなぁ?
俺、優一を“居なかった事”になんか出来ねぇもん。
大事な人が、大好きな人が、心ン中に2人居ちゃ、駄目なのかなぁ?」
そこまで聞いたら、涙が止まった。
いま。
なんつった?
「翔さ、」
今度はちゃんと振り返れたけど、大好きな人の名前は、大好きな人の口唇で、遮られてしまった。
『ありがとう』
そうか、さっきから聞こえる兄ちゃんの声、は
『おめでとう』
俺の心の中に居る、兄ちゃんの、声
だったんだな。
「かけ、る」
口唇の隙間から、愛しい人の名を呼べば
「さ、とし」
愛しい人も、俺の名を紡ぐ。
自分の名前が、こんな厭らしい音を響かせるなんて、知らなかった。
名前が溢れる毎に、翔、が欲しくて欲しくて堪らなくなる。
求められてる気がして、応えたくなる。
俺で、埋め尽くしたくなる。
そうして舌を絡めとって、吸い付く。
「ンッ」
気が付けば翔を押し倒していて、
唾液に塗れた舌を抜き取れば、重力に負けた糸が、翔の口内に戻り、収まり切れなかった分は頬を伝って、床まで零れ落ちて行った。
「きれい‥‥」
紅潮した顔から溢れる唾液は、翔の美しさを更に彩る。
「うそ」
「じゃない」
否定する翔の言葉を更に否定して、首筋に舌を這わせる。
汗ばんだ皮膚が光に照らされるのを、思わず見蕩れながら、喉元を味わう。
「ぅ、ン」
溢れる吐息は、まるでマシンガンみたいに俺の心臓を容赦無く打ち抜く。
心臓が早鐘のようで、むしろ苦しい。
それを我慢して、翔のYシャツのボタンを全部外した。
剥き出しになった肌に、また目眩を起こしながら、其処此処に舌を這わせ、吸い付く。
「ァ、んン。は」
煽られる。煽られる。煽られる。
攻めてるのはこっちなのに、まるで攻められてるみたいに、声だけで反応する自分が居た。
肌が、ビリビリする。
堪らなくなって、胸の突起を指の腹で擦り、
もう片方は舌先でチロチロと嬲る。
「ふ、ぅン」
ビクリと反応する翔を堪能しながら、空いた右手でズボンのジッパーを下ろした。
すでに膨らんでいるソレは、トランクスを押上げて自分を主張している。
ウエストのゴム部分に遮られて苦しそうにしてるから、トランクスをズリ下げてやった。
ぶるん、と気持ち良さそうに伸びをするソコを、掌全体で包むと、更に喘ぐ声のボリュームが増した。
「ぁ。ンや。は、ぁ」
エロ!! か、翔、エッロ!!
欲に囚われ、暴走しそうになる自分を必死に抑えて、掌に意識を集中する。
自分のソレとは明らかに違うソコは、親父のソレとも形状が違っていて、戸惑ってしまう。
これ、どう、したら良いんだろう?;
ここまで来て、初めて、自分の勉強不足を呪った。
どうしよう。このチャンスを、見す見す逃したくなんかない。
俺の一世一代の大勝負のはずが、このままでは翔に恥を掻かせて終わってしまう!!
焦れば焦るほどパニクって、身体はジワジワ硬直して行く。
どうしよう。どうしよう。どう、しよぅ…
瞬間、
ふわ。と、手の甲を包む暖かさに、ハッとする。
反射的に翔の顔を見上げると、
柔らかい、暖かい表情で、俺に笑顔を向けていた。
「!や」
“もう、良いよ”
そう言われる気がして、泣きそうになる。
「やだ」
このまま、続けたい‥‥!!
涙が溢れたら、
「大丈夫、
俺も、シたい、から」
また柔らかく微笑んで、
「キス。してよ」
ぬら。と、自分の口唇を舌舐めずり、して、
俺を誘う。
すげ、エロ‥‥
フラフラ、まるで催眠術にでも掛かったように、誘われるまま、その舌を絡め取る。
脳の奥が痺れるような、甘いキスを味わっていると、重ねられた手をそのままに、翔の誘導で上下されて行く。
掌に感じる、翔の温もり、薄い皮膚の感触。
ビクビク脈打ちながら、次第に硬く、太くなるその変化が、“感じている証“なのは、本能で分かった。
「ンむ、ッてぇ」
気が付けば、自分のソコも同じように膨らんでいて、パンツの衣擦れに痛みを感じるほどになっていた。
口唇を離すのが勿体無い気がして、口唇の間から声を漏らしたら、翔も同じに、そのまま話す。
「感じてんのな。
苦しいだろ?
も、脱いじゃおっか」
息が、震える口唇が、
いや、もう、何もかもが、えろッ。
「ん。ふふ」
返事、の後に、笑う空気が抜けてしまったのは、
多分、期待。
ニヤける自分を、抑える事なんかもぅ、出来っこない。
「チュ」
音を立てて、それが合図だったみたいにお互いようやく口唇を離す事に成功する。
服は、まるで競争でもしているかのように、2人共に脱ぎ切るのは早かった。
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