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侵食

『侵食』 抱かれる腕の中、僕はずっと怯えていたのだ。 「――っ………(あまね)、足を閉じて……」 「………は、ぃ……っ」 四つん這いの姿勢から背中に掛かる吐息を感じて、両足を閉じる。 次に垂らされるローションは太股へと念入りに塗り込まれていく。 尻の割れ目をなぞる昂りが脈打ち、その興奮を伝えてくると身体の温度は上昇し、気恥ずかしさにシーツを握り締めた。 それを合図とするように猛った熱量が太股の内側を擦り、穿つ腰の動きを感じる。 「……ッ………周………」 睾丸を持ち上げて、裏筋に沿って突き出されると自然と声が漏れ出た。 「あ………っ……五十鈴(いすず)さ、ま…っ…」 向かい合うことはない。 抱き締め合うこともない。 僕は五十鈴様の、慰めものだ。 「……っいいね、気持ちいいよ。周、君も興奮しているね?」 「あ………っ…はい、して…おりっ…ます……申し訳…ぁりま…せ……」 「……どうして?……周、嬉しいよ。君はもっと欲張ることを覚えた方がいい」 五十鈴様の細く綺麗な指先が僕の背骨を辿る。 一つ一つ、形を確かめるように。 「よ、く……っ……」 「そう、欲だ」 五十鈴様は一度たりとも僕の内側を犯したことはない。それを疑問に思ったこともない。 当然だから。拾われものの僕は、所詮慰めものなのだ。 それでもこうして時折行う蜜月に心を馳せている。 これを欲と言わず、何と言うのか。 「あ、りません………っ…そんなものは………」 嘘。 「本当に?」 嘘つき。 「あっ………待っ……そんな、急に……!」 ぎゅっと握り込まれた自身の昂りは急速に扱かれ、だらしなく先走りを漏らす。 「だめ……だめ……っ!」 「――ダメじゃない。」 本当はもっと、 「だ、め…先イっ…てしま……」 もっと欲しくて……。 「いいよ………手に吐き出して」 五十鈴様の熱量をズブズブに埋め込んで…… 「……なさい………ごめっ、なさ……ぃ」 ――奥深くまで侵食されてしまいたい。 打ち震えた浅ましい身体は白濁した精液を溢れんばかりに吐き出しだ。 「良い子だ」 首筋に感じた唇の感触に泣き出したくなった。 「……周?」 「ふぅっ……ごめ、なさ……っ……僕一人で……こんな役立たずで………」 僕はずっと怯えていたのだ。 「周、こちらを向いて。君に欲張れと言いながら、私も言い淀んでいた言葉がある」 抱かれる腕の中で。自身の欲望が、爆ぜてしまうことを。 「五十鈴様が、ですか…?」 「ああ、でも欲張ることにするよ。その前に一つだけ詫びを言わせてほしい。随分待たせてしまって悪かった、臆病な私を許しておくれ」 「そんな………!待って、ダメです…お願い、言わないで……」 「聞いて、周。もう逃がしてあげる気はないんだ」 「だめです、だめです……僕はそんな……」 「――私は、君が愛しくて仕方ない」 ずっと、ずっと……… 「周、君の欲も聞かせてくれないか?」 怯えていたのです………。 「僕……僕は………」 あなたが恋しくて、愛しくて。 「僕も…あなたが好きです……好きなんです……どうしようもなく、焦がれています…っ…」 これ以上の欲なんて、ありやしないから。 「余す所がないぐらい、あなたに侵されてしまいたいのです…っ」 【END】

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