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第5話

先読みの巫女は、これかれ訪れる災いや吉兆を見通すチカラを持っていた。 その言葉を村人は重く受け止め日々を粛々と過ごしていた。 巫女が大雪になると言えば大目に蓄えを確保し、豊作になると言えば喜んで農耕に励み生活を送ってきた。 贅沢は無く、金もないが食うには困らない人も豊かな村だった。 そんな村で巫女はかけがえのない指針だった。 巫女が居てこそ村は周辺の村々に比べ安定した暮らしを送ってこられていた。 巫女が言う通りに村人は従ってきたが、ある時巫女の言い渡した先読みが村人をビシリと凍り付かせた。 ーー大変な病がこの村を襲います。 それによって生き残る村人はごく僅かだと巫女は告げた。 その瞬間から、巫女を重んじる村人は変わってしまったのだ。 暗く陰湿な泥を喉を啜る様な嫌な空気を纏い始めて行った。 愚かにも村人たちはこう考えたのだ。 巫女が死ねば、先読みも失われるのではーー 誰も、好き好んで死にたくはなかった。 誰も、自ら進んで病に伏せたくなどなかった。 誰もが皆、健やかに生きていたかった。 当然の権利だ。 そして、村人たちは決行した。 巫女の先読みのチカラを潰したのだ。 思ったよりも事は簡単に易々と進んだ。 巫女を連れ、皆の前でその瞳を鋭い刃で潰したのだ。 巫女が先読みをするその時、彼女の瞳が黄金色に輝く事を皆が知っていた。 刃が通る間、巫女は猿轡を噛み呻き声のひとつも立てなかった。 静かに座し、口を噤み、その奇跡の瞳を真一文字に引き裂かれた。 結果、村に病は来なかった。 誰一人大病を患った者は居らず、皆がその年を健やかに過ごした。 ーー先読みの巫女の予言は変えられる。 その事実に湧き立つ村人の誰かが言った。 ほらな、と。

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