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運命は廻る⑥
ナダールは自室にグノーを連れ込んで貪るようにその唇を食んだ。
「こんなの、絶対後悔する」
「後悔なんてさせませんよ、私はあなたを一生愛せる自信があります」
「番にはなれないんだぞ?」
「そんな事は大した問題ではありません。私にとってあなたが唯一、それだけあればそれで充分。あなたもそう思ってくれたら嬉しいのですけど。それにそのチョーカーが絶対外れないという事はないはずですよ、きっと方法はあるはずです」
導くようにベッドに押し倒しその邪魔な前髪を払うと、こちらを見つめるルビーの双眸。その瞳は誘うように潤んでいて、それだけで心を鷲掴みにされたような気持ちになる。
今まで見ることが出来なかったその容貌は驚くほどに整っていて、息を呑んでその頬を撫でた。
「こんな美しい容姿、何故隠しているんですか? 勿体無い」
「嫌いなんだよ、この顔。ただでさえαが蛾みたいに寄って来るのに、顔出しただけでβの奴等まで寄ってきやがる、うざったくて敵わない」
その視線を避けるように、横を向いてしまう彼の頬にキスを落としてナダールは笑う。
「あぁ、それは確かに。ふふ、いいですね。私だけがあなたのすべてを見られるというのはとても興奮する」
「見なくていい、むしろ見んな!」
隠すように手で顔を覆ってしまうその手にも唇を落として、その指を舐め上げた。ひっ、と小さく悲鳴が零れる。
「あなたはどこもかしこも美味しそうですねぇ」
「こんな時まで食欲発揮してんじゃねぇよ!」
「同じ三大欲求ですよ、突き詰めれば出所はすべて同じなのではないでしょうか?」
顔を隠す腕を外してその瞳を覗き込むと、逃げるように瞳はぎゅっと閉じられた。
唇を頬から首へ首から鎖骨、そのまま胸元へと順繰りと落としていく。微かに震えるその身体をあやすように優しく撫でると、彼の身体はびくりと震えた。
「っつ、ふ」
噛み殺す声に色がにじむ。その声をもっと聞きたくて、服の中に指を忍ばせ薄い身体を撫で上げる。
彼の身体は本当に薄い。腰など両手で掴めてしまいそうな程に細いので壊してしまいそうで少し怖い。彼の服を腕から抜き取り脱がせてしまうと、自分も服を脱ぎ捨てた。
白い。月明かりしかない室内でもはっきり分かる程に彼の身体は白かった。薄い胸が上下しているのが見てとれる。
「……じれったい!」
「何がですか?」
「やるならさっさとやれよ! まさかやり方が分かりません、なんて言うんじゃねぇだろうな!」
「さすがにそれは無いですよ」
薄く笑ってその胸元に舌を這わすとまた彼の身体はびくんと跳ねた。
「もう、そういうのいいから……」
首に腕を巻きつけられて耳元で囁く甘い声「早くいれろ」
声は甘いのに、甘さは微塵もないその命令口調にまた笑ってしまう。
「情緒がないですねぇ」
「今そういうのいらねぇから! これ完全にヒートだからな、なんでお前そんな余裕ぶっこいてんだよ!」
怒る姿も愛らしいなどと思えるのは相手が『運命』だからだとしか思えない。だが、自分も余裕がある訳ではない、部屋に連れ込んだ際お守り代わりの薬をひとつ口に放り込んで今はなんとか理性を保っているのだ。だが、その理性も途切れがちなのは自分でも自覚していた。
「余裕なんてないですよ。いれたくて堪らないのは私も同じですが、そんな獣じみたまぐわいはごめんですよ。優しくしたいんです、駄目ですか?」
「我慢できないんだよ、はやくお前をよこせ!」
そう言って彼は起き上がり馬乗りになるようにナダールの上に跨り、髪をかき上げる。
「扇情的ですね。さっきまで嫌がっていた人とは思えない」
「お前が焦らすから!」
「焦らしていた訳ではないんですけど」
彼の下からまた白磁のような頬を撫でると、きっ! と睨まれてしまった。これ以上はまた彼を怒らせてしまいそうだと、己のモノを出して彼の前に晒す。
先程から自分だとて苦しくて仕方なかったのを我慢していたのだから、そんなに睨まなくてもいいじゃないかと少し拗ねたような気持ちになったが、そう思ったのも束の間でその己のモノを彼は自身の口の中に誘い込んだので、ナダールは目を見開いた。
「え? ちょ? 何してるんですか?」
「こんなでかいの、そのまま入る訳ないだろ。Ωだって言ったって身体は男だ、なんの準備もなしに入ると思ったら大間違いだ」
「だったらやはりもっと時間をかけるべきなのでは?」
「身体が欲しがってんだよ! つべこべ抜かすな!!」
物理的に甘い空気は流れているのに、甘い雰囲気にはなれない事にナダールは苦笑する。
「分かりました、私も馴らすの手伝いますのでこっちに来て下さい」
腕を引いて彼を起き上がらせ、抱き込むように抱え込んだ。肩口で「うぐっ」とくぐもったような声をあげる彼に首を傾げると、匂いがきついと涙声で言われてしまった。
一般的にフェロモンは項から出ていると言われている。そこに近付けば近付くほど匂いがきつくなるのは当然で、肩口に顔を埋めてしまえば、フェロモンをじかに浴びているのと変わらない状態になるのも頷けた。
「もう無理」と、ぐったりと弛緩してしまった身体を横たえてその下着を剥ぐと彼の下肢は既にしとどに濡れてひくついていた。
「凄い、こんなに濡れるものなんですね」
素直な感歎の言葉に「見るな」と、か細い声が応戦する。そんな声を無視して、己を誘う彼の穴に指を伸ばせば、そこはすんなりと指を受け入れ彼はびくりと身体を跳ねさせた。
「これなら普通に入るんじゃないですか?」
「こんなの初めてで、分かんねぇよ……」
彼はαに抱かれた事があると言っていた筈なのに、そんな事を泣くような声音で言うので、意味が分からずとりあえず指を増やしてみた。
「っあ、あ! やめっ、んんっ」
やはり増やした指もなんなく呑みこんだので、それで中をぐちゃぐちゃと掻き回してみると小さな悲鳴を零して彼の雄の部分は達してしまい、肩で大きく息をするように震えている。その姿は扇情的でどうにかなってしまいそうだ。
「苦しい。なぁ、早くぅ」
更に濡れそぼったそこに己をあてがい、がむしゃらに突っ込んでしまいたいのを息を逃して耐えながらゆっくりと奥へと押し付ける。そこは温かく纏わり付くように己に吸い付いてきて、我を忘れるほどに気持ちが良かった。
「っは、もっと、もっと奥まで! こんなんじゃ全然足りない!!」
「煽らないで下さい、理性が飛びます。そうなったらあなたを抱き潰してしまう」
「いい! いいから!! もっとくれよ、このまま抱き潰せ、それで俺を殺してくれ!」
その叫びに頭の血が一気に引いたのを感じた。
「嫌ですよ、何を言っているんですか? 殺す? 誰が誰を?私は愛する人を殺すような、そんな趣味は持ち合わせていません」
ナダールの言葉に返事はなく、彼は既に理性を手放してしまったようで瞳からぼろぼろと涙を流しながら、あえぎ声を零し続ける。今更行為を止める事もできず、ナダールはその身体を揺さぶり続けたが、どうにも心は冴えてしまって疑問ばかりが頭を巡る。
『運命』の二人だ、例え今すぐ番になれなくとも結ばれる事が決定付けられたような二人のはずなのに、彼は自分を殺してくれとそう言うのだ。
チョーカーを着けた相手もまだ彼は教えてはくれない、自分は彼を何も知らない。それなのに本能のままに彼を抱き潰すことが『運命』だというのなら、それは何か間違っているとそう思った。
身を離そうとすると、足でがっしりホールドされてしまい離れることができない。間違っていると思いはしても彼から漂うフェロモンはただただ甘くてナダールの脳を麻痺させた。
こうなってしまうのも『運命』なのかと諦めて、自身も理性を手放す事に決める。
その後のまぐわいはまさに獣じみて、その行為は明け方まで続いた。何度彼の中に己の精を吐いたかも分からなくなった夜明け、ようやく二人は意識を手放した。
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