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真人⑪
言われた通り壁に手をついたままでいると、今度は「脚、ちょっとここ乗せて」と亮治の優しげな指示により、左脚だけを便器の上に乗せられる。
何が起きてるのかわからず、ポケットチーフを噛む顎に、ただ力がこめられていく。
後ろから亮治の手がやってきたーーかと思うと、真人の自身はその手によって包みこまれていた。
先端でにじんだ我慢汁を親指で広げられ、前後にゆっくりと扱 かれる。ゆっくりとした手つきに悶えていると、支えている右脚と便器の上に乗せた脚のあいだで揺れる玉を後ろから食 まれた。
その触感に、真人の口からは「ん……っ」とひときわ大きな嬌声が飛び出してしまう。亮治の口内が、認めざるをえないくらい温かくて気持ちよかったからだ。コロコロと舌で二つの玉を蹂躙され、強すぎる刺激に目がくらみそうになる。
次々に溢れ出る我慢汁が潤滑油の役割を果たしているのか、自身を扱いてくる亮治の手の動きもスムーズだ。性器全体に、同時に与えられる快楽――。真人の口から、いよいよポケットチーフがはらりと落ちた。
口をふさいでいたものが消え、声が大きなる。
「あっ、ふ……っ、んっ……! い、や……っ、りょう、じ……っ! 離、し……って」
これ以上続けられたら、イッてしまう。あられもない姿を、見せてしまうことになる。怖い。怖い。怖い――。なんでこんなことをするのだろう。
僕でいいいんじゃないの。確かに真人はそう言った。だが、それはこういう意味じゃない。こんなふうに、真人が快楽を与えてもらうために言ったわけじゃないのだ。
便器に置いた左脚が、ガクガクと震える。
「だ、め……っ、イク……っ、なん……っ、イッ――――」
その瞬間、真人のすべての意識が下半身に集中した。ドクンッと大きく自分の中で脈打ち、最大の快感に酔いしれる。
自分は今、どうしようもなくまぬけな顔をしているのだろう。確かめたいのに、壁に吐き出された自分の精液が視界に入ると、どうでもよくなった。眠気が襲ってくる。足腰の力が、抜けていく――。
後ろに倒れると、亮治の体に抱きとめられた。薄目で後ろを見上げると、心配そうな亮治の顔があった。
なんで亮治が、そんな顔をするのだろう。こんなことを自分にして、亮治は何がいいのだろう。
目をつむろうとすると、唇に唇を押し当てられた。
もう……どうだっていい。
真人は口を開け、亮治の舌の侵入を許す。亮治の舌が、ためらいがちに真人の舌を絡めとった。くちゅくちゅと唇と舌で互いの形や体温、唾液の味を確認しあう。
言い訳のようなキスのあと、亮治は唇を離し、真人の体を自分の胸元にあったポケットチーフで拭いてくれた。壁についた真人の精液も拭きとり、個室の上から壁を伝ってなんとか外へと脱出する。鍵はただ硬かっただけらしく、外から鍵を引くと簡単にドアは開いた。
亮治のおかげで、真人もようやく外へ出ることができた。
二人が披露宴会場に戻ると、従妹の万美のお色直しはとっくに終わっていた。母と従兄の晃にも、こっぴどく叱られた。
気分よく酒に酔った父は、母や晃に向かって「まあいいじゃないか」と言って、亮治と真人に瓶ビールを注いでくれた。
目も合わさず、形式上、亮治と乾杯して打ちつけたビールグラス。そのグラスにヒビが入っていることに気づいたのは、披露宴が終わり、席を立つ寸前のことだった。
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