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真人⑰
タラタラとあふれる我慢汁が、折り曲げた股関節の隙間に溜まっていく。そこから流れた汁が、新しいソファベッドに染みを作ってしまうかもしれない。そんなことを頭の片隅で考えるが、与えられる刺激に思考を遮断されてしまう。
真人の後ろは、十分にほぐれたらしかった。亮治はゆっくりと指を引き抜くと、自身のいきり立ったそれを真人の受け入れ態勢の整ったそこにあてがった。
「大丈夫、か……」
それが最後の確認だった。
真人は声が出せないまま、うんうんと何度も頷いた。頷くたびに、額が亮治の肩にぶつかる。骨が浮き出た肩は、汗で濡れていた。
ぴたりとくっついた亮治の熱い先端が、ぐっと押しこまれる。
「あ……っく……っ」
一気に亮治のそれを迎え入れ、真人は圧迫感に唸った。腹の内側から押し上げるそれは、熱くて硬くて……自分のものではないのだということを嫌でもわからせてくる。
亮治はしばらくの間、動かなかった。時間をかけて、真人の体内に馴染むよう我慢しているのがわかる。
「や、あ……っ。りょ、う――」
名前を呼ぼうとしたその時。先ほど「亮治」と呼んで嫌がられたことがフラッシュバックし、真人は両手で口を押さえた。今拒まれて放置なんてされることになったら、体も心もたまらない。
だが、亮治の行動は予想外のものだった。真人の口を覆っている、真人の両手。亮治はそれを、なんと両手を使って剥がしにかかってきたのである。
耳の横に両手を押さえつけられ、真人はふるふると首を横にする。ただでさえ体内の圧迫感に気おされているのに、これ以上支配するのはやめてほしかった。
「ご、め……っ、にいさ……っん」
名前を呼びそうになったことを謝る。すると亮治は、苦し気に「そんなこと、おまえ」と言って真人の唇に唇を落とした。
その言葉に、真人は涙が出そうになった。もっと早くこうしていればよかったと思った。そうすれば、名前で呼ぶことは『そんなこと』で処理されていたかもしれないのに。
亮治の腰が揺れる。動きたくてたまらないのだろう。自分だってそうだ。動いてほしい。
「うご、いて……っ、い……っ」
真人がそう言うと同時に、亮治の汗が上からポタリと頬に落ちてきた。
――ごめん。
亮治は最後にその言葉を残し、それから激しく真人の体を揺さぶった。
亮治の動きに合わせて、真人も声がかすれるほど喘いだ。腹の中を行き来する熱いものが、先ほど指で押されて尿意を感じた場所を、的確に突いてくる。
だが、それは指でされるよりも、圧倒的な刺激をもたらした。
「ぜ、んぜ……っ、ちが……っ」
亮治の力と体重が、そこばかりを狙って前後する。揺さぶられながら、真人は徐々に膨れ上がっていく快楽に歯を食いしばった。
どこかに解放しないと、壊れてしまう。わかっているのに、解放の仕方がわからない。
「は、あ……っん、は……っ、は……あッ」
「……イキそうか?」
亮治が色っぽく眉を歪ませて、訊いてくる。
「わ、かん、な……っ」
真人は亮治の首に手を回した。わからないから、教えてほしかった。
首筋に顔をうずめると、亮治の動きはさらに激しくなった。ひとしきり正常位で動いた後、今度は真人をうつ伏せにして、亮治は後ろから真人を突いた。正常位よりも亮治のものがさらに奥まで入ってきて、真人は初めての感覚に目がくらんだ。
犯されているという実感を、嫌でもわからせてくるようだった。興奮した。
「ん、う……っ、イ……っく……っ」
「……っ」
亮治の動きが、さらに速くなる。汗や体液に濡れた肌のぶつかり合う音が、耳を犯してくる――。
再び仰向けになって亮治の顔を下から見上げた時、亮治がぺろっと唇を舐めた。歯の間から覗く、ぬらりと赤く光る舌。
食べたい、と真人は思った。舐めて、転がして、味わって……そうやって食べれてしまえたら、と。
そうすれば、亮治は他の男を舐めて愛すことができなくなるのだ。そうなったら、どれだけいいか。
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