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亮治④
***
なんでこんなに痩せてるんだろう……亮治は自分の腰の動きとともに揺れる真人の背中を見つめながら、そんなことを思う。腰の横を両手で押さえて、真人の体が離れていかないように、腰をリズミカルに打ちつける。
「あっ、あっ、ふっ……うっ」
真人の口からは、こちらの動きに応えるようにして嬌声が次々に漏れる。低いとも高いともいえない……だがそれは、まぎれもなく『男』の声だった。
高校の時、男友達の家でAV鑑賞をしたことがある。その時の画面に映っていた女優の裸体はもちろん、亮治は喘ぎ声さえも聞くに堪えなかった。十年以上も前のことを思い出し、『男』の声で記憶をかき消したくなる。
亮治はバックの体勢で、真人の体をさらに揺さぶった。背骨の浮き出た背中に、額から落ちた自分の汗が流れる。
「んっ、くっ、んっ、あっ……!」
真人は「苦しい」とも、「つらい」とも言わない。もちろん「気持ちいい」とも……。
亮治は自分のものを挿れたまま真人をひっくり返して、汗で額に張りついた真人の前髪を横に流してやる。まつ毛を震わせて見上げてくる男に、さらに下半身の熱を煽られる。
正常位のまま、男の両脚を自分の肩に乗せて、今度は上から突き刺すように真人の腹の中を貫いた。
「そ、れ……っ、や、ぁ……っ」
腰を回し、男の体を中から揺さぶりかき回す。真人はこれに弱いのだ。一年前の今頃は、そんなことは知らなかった。
挿入する方としては射精できる刺激ではないけれど、自分のものや動きによって悶える姿を見るのは……たまらない。
ベッドがギシギシと激しく音を立てる。何かに掴もうとしてさまよう真人の両腕。それを自分の首に回させて、亮治は真人の体に覆いかぶさった。
真人の耳がすぐ横にきたので、耳たぶを甘噛みする。舌で耳たぶを蹂躙してやると、キュッと真人の体内が締まった。きつく絞られ、思わず射精感がこみあげる。
だが、まだ早い。もっと味わっていたかった。もっと啼いてほしかった。
加虐心が育っていくのを感じながら、亮治は耳たぶを蹂躙したあと、耳の中へ舌を挿れた。ひゃっ、と真人が声にならない声を洩らす。
それから耳の形を味わうように舐め、同時に腰も動かした。真人がしがみついてくれることに甘んじて、右手で胸の突起も弾いてやる。たまらないというように腰を浮かす男の耳を解放し、次に唇で唇をふさいだ。
汗と涙でぐちゃぐちゃになった真人の唇は、しょっぱかった。快楽と疲労のせいで、舌が回っていない。
唇を合わせながら、男の体を揺さぶる。苦しそうなため息が、頭の角度を変えてキスするたびに口の端から洩れる。
しばらくそうしていると、次第に真人の体はピクピクと震えていき、奥を突き刺した状態の亮治の腰を、両脚でがっちりと固定してきた。ビクンビクンと大きく痙攣した真人の腕が――いや、全身が亮治の体にきつく食い込む。
それは真人が中で絶頂する時の反応だった。射精する時のように、一瞬で終わるものではないらしい。こういう時の真人は、しばらく亮治の体にすがりつく。
真人の中も痙攣しているのがわかって、亮治も全身で真人の絶頂を受け止めた。
ゆっくりと体を離し、絶頂の余韻に浸っている真人に「……大丈夫か?」とこちらも息を整えながら訊く。
真人は息も絶え絶えに、「……まだ」と天井に向かってつぶやいた。
「え?」
「兄さんが、まだ……イッてない……」
「俺はべつに――って、おい!?」
体を起こした真人が、こちらの下半身に手を伸ばしてくる。まだ萎えることを知らないそこは、真人の細い指に絡めとられただけで、ピクッと反応を示した。
そしてなんと真人は、亮治の下半身に頭をうずめると、おそるおそるそれを小さい口の中に含んでいった。
「……っ」
あくまでも仕方なく抱かせてくれていると思っていたので、少しでも真人が嫌な思いを重ねないよう、亮治は真人にフェラを強要したことはなかった。せめて気持ちよくなってもらいたいと、こちらがフェラをしたことはあるけれど。
だから、真人からフェラをしてもらえる日がくるなんて、思いもしていなかった。
覚束ない舌が、必死に亮治のそれのまわりを這う。射精できる刺激ではないが、真人が自分のものをくわえている……それだけで、イキそうだった。
上から真人の前髪を掻き上げ、形のいい額をあらわにする。自分のそれを含んだがゆえに膨らんだ頬が、可愛らしかった。
「……っ、ふ……っ」
こちらも息が上がってきて、目を閉じて真人の口内を感じる。真人の頭を強く押しつけると、喉の奥に当たってしまったらしい。
「ぐ、ふ……っ!」
真人の苦しげな声にハッと我に返り、「ごめん」と頭から手を離した。だが真人はいったん口を離したあとに「大丈夫……」と言うと、再び亮治のそれを自ら口に含んだ。
自分が下手くそなことを理解しているのだろう。悩ましげに下がった眉尻からは、これで合っているのだろうかという不安が見て取れる。
亮治はフッと笑って、「手も使ってくれるとうれしい」と伝えた。すると真人は少ない経験の中からやり方を発掘したのか、右手を筒状にしてそれを包みこむと、先端だけを口に含んだまま、ゆっくりと手を上下に扱きはじめた。
やっと射精できそうな刺激を与えられ、亮治はやっと下半身に集中できた。真人の唾液と、自分の出した我慢汁が混ざり、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てている。射精感が徐々に上がってくる。
亮治は薄目を開けて、真人の背中に触れた。背骨をたどっているうちに、ドクッと自分の先端が脈打ち、亮治は真人の口内に射精した。抜かなきゃいけないとわかっているのに、びゅっ、びゅっとあふれる感覚に酔いしれてしまう。
結局最後の一滴まで真人の喉奥に放ってしまい、やっと自身を抜いた時には、真人にゲホゲホと咳き込ませてしまった。
ベッド横にあるティッシュの箱からティッシュを何枚か抜き、「すまん」と真人に渡そうとする。
だが真人はティッシュを受けとろうとしなかった。たった今、亮治が出した白い液体が、真人の口の端から流れる。
真人は指で漏れた精液を拭うと、なんと突然、ゴクッと喉を鳴らしたのだった。
「はっ!?」
いったい何が起きたのか。亮治は目の前にいる真人の行動に、目を疑った。
「真人おま……っ、飲んだ……のか?」
顔を覗くと、真人の半開きになった口の中には、すでに何も残っていないように見える。真人は小さく「……うん」と頷いた。
わけがわからなかった。どうしてそんなものを飲むのか。専用アプリで何人かの男を抱いてきた亮治だが、亮治の精液を積極的に飲もうとする男は二つのパターンに分かれていたことを、ふと思い出す。
一つは性欲旺盛な男だ。そしてもう一つは――。
亮治の頭の中に、それだけは避けたいと思っていた考えがよぎる。
「なあ、真人……一つ訊いてもいいか」
「……なに」
「違ったらごめん。おまえさ、俺のことを好きじゃないよな?」
亮治は訊いた瞬間に、後悔した。
「……そんなわけ、ないじゃない」
そう言って笑いながら否定した真人の目からは、涙が一筋流れていたからだ。
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