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覚悟のふたり⑦
「無理しなくていいよ」
準備を怠らない自分に、亮治は何度もそう言ってくれた。だが、自分がしたくてしていることなのだ。無理なことなんて、一つもない。
亮治に抱かれるたび、貪欲になっていく自分がわかる。もっと、もっと……と、飽くなき快楽への探求心が湧き起こる。
焦った様子でスウェットのズボンとトランクスを脱いだ亮治は、それらを床に投げ捨てると、真人の蕾に舌を這わせた。向こうも興奮しているようだ。「はあ、はあ、はあ」と、断続的なため息が、背中の上に落とされる。
チロチロと舐める亮治の舌は、衝動だけでこちらを傷つけないよう、必死に動いているみたいだった。もう準備してあるから、早く挿れてほしいのに……と思う。でも、本能と理性の狭間で闘う亮治の息遣いを聞くのが、真人は好きなのである。
しばらく蕾を舐められ、後ろから両方の乳首をこねくり回されているうちに、真人の太ももはガクガクと震えてきて、前の刺激なしに射精してしまった。
白いものがビュッビュッと革製のソファを汚し、真人は腰を高く上げたまま、脱力してソファに顔をうずめる。息を整えている最中だというのに、太くて熱いものが、ドロドロになったそこにあてがわれる感覚。
「ちょっ、ま……っ!」
制止する前に、ズンッと後ろから太いものが腹の中を圧迫してきた。確認しなくても、それが何なのかは、すぐにわかった。
押し広げられ、みっちりとそこに収まったもの――ちょうど真人の弱いところを動かずも刺激してくるそれに、真人は悶えた。
「は、あ……っん……く……っ」
「……動いて、いいか……?」
訊かなくてもわかっているくせに、亮治は耳元で、そう言った。真人は目尻に滲む涙がこぼれ落ちることもいとわず、コクコクと頭を縦に振った。
瞬間、腹の中に埋められていたものが引き抜かれ、ズズ……ッと再び中に戻ってくる。ゆっくりだったその動きは、徐々に速さを増していき、最終的にパンパンと真人の尻を弾いた。
中をえぐられる感覚に、頭の中がクラクラと揺れる。気持ちよかった。本当に、本当に……気持ちよかった。
両親からの気遣いや心配を隅に置いて、自分達はこんな肉欲に耽っている。いくら亮治を選ぶといったって、行為の最中、どこか冷静な自分がいる。
両親のことを考えると、なんでこんなことになってしまったんだろうと、否が応でも思う。
後ろを突かれていると、亮治の手がさわっと真人自身に触れた。上下に扱かれながら、ガツガツと中を犯される。
「あっ……! も……っいや……っ。む、り……っ」
冷静に考える自分が、亮治の動きで壊れていく。耳たぶをピチャピチャと食 まれると、真人の口からは声にならない声が、絶えず溢れ出た。
もう何も考えられなかった。なんなら、背徳的なことをしているという感覚が、たまらなかった。
「ま、こと……っ。痛く……ない、か……っ?」
この男は、何を言っているんだろう。今の自分の一体どこが、痛がっているように見えるんだろうか。
真人は顔だけを後ろに向け、チュッと亮治の頬に口づける。目を開けて相手を見つめると、ちょうど亮治の瞳に捕まった。
自分がどんな顔をしているかは見えない。だけど、亮治は寂しそうな顔をして一言。
「……泣いてる」
と口にして、真人の体を背中から抱きしめた。動きが止まる。
弱々しい男の側頭部をさわさわと撫で、真人はソファの上で仰向けになった。
後ろからじゃ、互いの顔が見えない。後ろから突かれるのも好きだけど、最後はやっぱり、お互いの顔が見えなければ寂しい。
仰向けになった真人に、亮治の眉根が歪む。それから深く舌を口内に差し込まれ、舌を散々、嬲られた。
舌をいじめられながら、亮治の手が真人の膝の裏に入ってくる。脚をⅯ字に開かされ、一旦引き抜かれた亮治のそれが再び侵入してくる。
「はっ……う……っ!」
中にみっちりと収められた亮治自身が、いいところを圧迫してくる。抜いて挿すごとにそこを刺激してくる感覚に引きずられ、真人は頭を振って耐えた。一瞬でも気を緩めてしまったら、すぐに快楽の波に飲みこまれてしまう。
そう思ったからだ。
「はあ、はあ、はあ……っ」
亮治の息遣いが耳元で聞こえる。真人は自分の上で腰を振る男の背中に腕を回し、汗ばむ肌にわずかに爪を立てた。
「も……っ、イ……っ」
弱々しくイキそうだと訴えると、亮治がこちらの腰をぐっと高く持ち上げた。
「そこ、や……っ! りょ、うじぃ……っ」
今までかすめるように刺激を与えられていた、真人のいいところ――。そこに、亮治の先端がダイレクトにぶつかってくる。
強すぎる刺激に、真人は思わず目も口を閉じることを忘れた。
「ふ、ん……っ、ア、んん……っ!」
だらしなく嬌声が漏れる口を両手で必死に覆う。下半身からグチュグチュといやらしい水音が響いている。
しばらくすると、中を圧迫してくる亮治のそれが、ひときわ大きくなった。亮治の息も、さらに上がってきたようだ。
快楽を味わうように目を閉じていた亮治のまぶたが開き、獲物を狙うような鋭くも色っぽい目が、真人の目を捕らえる。
目が合うと同時に互いの唇を貪り、腰だけ動かしつつ互いの体を抱きしめる。
「く……っ!」
真人の中で、亮治が爆 ぜる。その瞬間、ずっと刺激を受けていたそこに亮治の精液がぶちあたり、真人は男の体に回す腕に力を込めた。
「ん……くっ!」
僅差で真人も相手のそこを強く締め付け、絶頂の波にさらわれた。ドクドク……と腹の中に注がれる感覚と、自身が腹の上にぶちまけた温かい感覚が、同時に真人を襲う。
このまま二人だけの世界に行けたらいいのに――。幸せなのに本気でそう思ってしまうのは、どうしてなんだろう。
脱力して自分の上に覆いかぶさる男の頭後ろを撫でながら、真人はそんなことを思った。
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